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俺の気持ちに気づかない由香は、「じゃあ、お願い」とココを気軽に渡そうとした。そのとき、ココと目が合った。ココが「また、会ったね」と俺にほほ笑んだ気がした。俺もつられてほほ笑みを返したつもりだったが、はたから見ると顔が強張っていたのだろう。由香が俺の目を覗き込んだ。
「どうしたの? まさか、伸一さんって猫が嫌いなの?」
「いや、嫌いじゃないよ」
「もしかして、猫が怖いの?」
返事をためらっていると、由香が畳みかけた。
「そんなばかなことないわねえー。関東リーグのラガーマンがこんなかわいい猫が怖いなんて」
仕方がない。恥を忍んで打ち明けようと思ったとたん、由香は続けた。
「パパは猫が好きな人じゃないと私の結婚相手と認めない、とさっき言ってたけど」
喉まで出かかった言葉を引っ込めた。それは困る。
「そんなばかな。ちょっと寝不足で反応が遅れただけだよ。もちろん猫は大好きだよ」
ココを手渡された俺は、まるで王冠でも押し抱くように受け取った。
劣勢のなかスクラムで一気に押し返すような気持ちで、ココを抱いて後部座席に乗り込んだ。
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