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俺は全身緊張しながら、ココを抱いていた。ココの震えが伝わってきた。ココがんばれ、と心から願った。
時計を見ると、もう夜中の一時だ。このところ、睡眠不足が続いている。早く寝なければ。明日は、遠方に住む由香の両親に結婚の承諾をもらいに行く日だ。
由香と待ち合わせた新幹線に、ギリギリ間に合った。車中で緊張気味な自分を励ました。
大丈夫だ。俺は世間的には十分ハイスペックなんだ。大学も勤務先も名が通っている。健康面も、大学でラグビーをやっていて自信がある。マイナスのカードはない。いや、正確には一つだけあるが、それは由香にも言えない、恥ずかし過ぎて。
約束の時間に実家に着いた俺たちは、八畳の和室に通された。世間話から会話を始めたとき、視界の隅に動く黒いものがあった。子猫だった。由香が甘い声を出した。
「あー、子猫を飼ったんだ」
お母さんは顔をほころばせた。
「そうなの。かわいいでしょ? 名前はココというの」
額に汗が出てきた。
「おや、川合さん、暑いですか?」
「いや、大丈夫です」
ココが近づいて来た。身体が固まってしまった。
「あら、ココも川合さんが気に入ったみたい」
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