3 年下カレが甘える時

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 ほっと一息ついてから、メッセージアプリの通知に気づいた。メッセージは壮真君からだった。 『お弁当、ありがとうございました。美味しかったです』  良かった、美味しかったみたい! いや、そういうことではなくて! 私は迷惑かどうかなんか考える間もなく、カレに電話をかけていた。壮真君はすぐに出てくれた。 『亜美さん、おはようございます』 「あのね、壮真君!」  壮真君の挨拶も無視して、私は一気に本題を切り出していく。 「昨日SNS見ててびっくりしたんだけど、どうしてみんな、彼女手作りのお弁当だって知ってたの?」 『え? だって、記者の人に話したから……』 「はい!?」  思わず大きな声が出てしまう。  壮真君の話は、こうだった。いつも出前を注文する壮真君、昨日は珍しく注文をしなかったことを昼休憩中に記者の人に聞かれたらしい。記者はきっと壮真君の体調を心配したに違いない。そこで、カレはあのお弁当箱を見せたらしい。 『彼女の手作りなんていいですねって言ってもらいましたよ』  壮真君の声音は、寝起きなのかどこかふわふわと覚束ない様子だった。その代わり、私の顔は青ざめたり、赤くなったりと大忙しだった。 「もう、恥ずかしいからやめてよ……」  私がそう本音を漏らすと、電話口から壮真君がくすりと笑うような声が聞こえた。 『恥ずかしがっている亜美さんの顔、直接みたいな』 「なっ……!」  なんてことを言うのよ、壮真君は! そう抗議したら、電話の向こうの壮真君は黙ってしまった。 「壮真君? どうしたの?」  何度か名前を呼びかけて耳をすます。すると、穏やかな呼吸が聞こえてきた。どうやら眠ってしまったらしい。私は電話を切り、深くため息をついた。まったく、カレは自分のファンの多くは女性であることに気づいていない。彼女がいるのが知られて、ファンが離れたり、脅迫なんてされたら……悪い想像はどんどん膨らむばかり。電話ではなく直接会って、ちゃんとカレと話をしないと。私は次のデートまでの日を指折り数えて、深く長くため息をつく。それは今の私にとって途方もないくらい遠いものだった。 ***  ようやっとやって来たデート当日。この日はおうちデートだった。私はケーキを買って壮真君の家に向かう。呼び鈴を鳴らすと、壮真君はすぐにドアを開けてくれた。 「亜美さん!」  壮真君はパッと嬉しそうな顔で私を出迎えてくれたけれど、その表情は少しずつぎこちないものになっていく。私が怒っているような顔をしていたからだと思う。私はリビングまで壮真君を押し込み、冷蔵庫にケーキを仕舞ってから、カレからじっくりと話を聞きだすことにした。 「どうして記者の人に正直にお話しちゃったの?」  そう聞くと、カレは少し悩み始める。 「上手く言えないんですけど……」 「うん、いいよ」 「以前、美術館に行った時に……亜美さんの先輩と会ったじゃないですか、男性の」  私はその時の記憶を引っ張り出し、頷いた。 「その時感じたもやもやを、どうにか解消したかったんです」
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