4 年下カレが本気を出す時

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こんなサプライズを考えてくれていたなんて、全然気づかなかった。私の目からぽたりと滴がこぼれる。それは留まることなくどんどん溢れていく。目の前にいる壮真君は慌ててハンカチを差し出してくれた。私はそれを借りて目に押し付けるけれど、次から次へと、涙は止まらない。壮真君はそっと私の手を握り、泣き止むまで待ってくれたけれど……相当時間がかかってしまった。 「……ごめんね。時間かかっちゃって……」  私は鼻を鳴らしながら、壮真君の隣を歩いていた。目元が少し熱くて、きっと腫れぼったくなっているに違いない。メイクも直したかったけれど、お店を出なきゃいけない時間になってしまい、私たちはそのまま外に出ていた。会計もいつの間にか、壮真君が終わらせていた。 「いいんですよ。そんなに感激してもらえるなんて思ってなかったから」  壮真君は私の手をきゅっと握った。カレの反対側の手には、あのフラワーアレンジメントが入った袋がある。予約するときに彼女にプロポーズをするので個室が良いと伝えたら、アレが突然テーブルに置かれたらしい。お店からのサプライズと祝福に感謝しながら、私たちは夜の街を歩いた。このまま帰りたくないな、そう思った時、壮真君は足を止めた。 「……実は、ホテルも取ってあるんです」  少し照れたように壮真君は小さな声でそう言った。私は深く頷いた。お泊りの用意なんて何もしていないけれど、今は一分一秒でも長くカレと一緒にいたい。その気持ちの方が強かった。 「今日はもっと一緒にいたいから、嬉しい」 「良かった。行きましょう、ここからすぐだから」  その言葉の通り、カレがリザーブしていたホテルはすぐ近くだった。フロントで手続きをして、私たちはエレベーターで上に昇っていく。部屋についてドアを閉めた瞬間、ぎゅっと後ろから強く抱きしめられた。 「良かった」  壮真君は私の左手を取り、その輝きを確認するように指輪を撫でた。 「キス、してもいいですか?」  耳元にかかる熱い呼吸。私が頷くと、壮真君は私の肩を抱き、壁に押し付けながら正面を向かせる。見上げる間もなく、雨のようにキスが降り注いでいく。唇だけじゃなく、頬、おでこ、耳、首筋。くすぐったくなって身を捩っても、カレが離れる事はない。呼吸だけじゃなくて、唇も手も、もう熱くなっていることに気づいた。それとは対照的に、カレがかけている眼鏡は冷たいまま。 「ねえ、壮真君。眼鏡、外して……?」  こんなおねだり、初めてした。カレも驚いて眼鏡の奥の目がまん丸になっている。 「やっぱり、眼鏡邪魔ですか? コンタクトにしましょうか?」 「ううん! そうじゃないの」  私は両手で彼の頬を包み込み、背伸びをして唇にキスをする。 「壮真君が眼鏡かけてるの、好きだよ。好きだけど、外す瞬間も好きっていうか、かっこいいの……」  尻すぼみになっていく言葉を聞いて、壮真君は嬉しそうに笑った。 「そうだったんだ」  そう言って、カレは眼鏡を外して胸ポケットに仕舞った。ガラスを隔てない、カレの瞳がすぐそこにある。その目が私を見つめている。私の手を握り、今度はカレからのキス。 「あと、ね」  キスの合間に私が口を開く。身をかがめていたカレは私の事をまっすぐ見つめながら「なに?」と囁いた。 「壮真君の眼鏡を外した時の顔知ってるのは、私だけがいいの……」 「……亜美さんだけですよ?」
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