1 年下カレが眼鏡を外す時

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「壮真、くん?」 「黙って」  見上げるのと同時に、カレの唇が私の口を塞いだ。声を出すことも出来ず、私はただそのキスを受け入れる。腕はまだ壁に強く押しつけられたままで、体を動かすことも出来ない。壮真君は首を傾けて、まるで「開けて」と命令するように私の唇をぺろりと舐めた。私はそれに抗うことはできず、薄く唇を開く。カレの舌が私の口腔に滑り込み、そのまま絡みついて来る。キスはどんどん深くなっていく。 「ん、んん……」  甘い声が漏れたのに壮真君も気づいて、手首を離してくれた。私はカレの背中に腕を回す。もっと近づきたい、そう思ったのに……カレはキスをやめてしまった。 「壮真君……」 「うん、わかってる」  そう言って、カレは眼鏡を外した。トレードマークの銀縁の眼鏡を靴箱の上に置いて、ジャケットを脱ぎ捨てた。  カレの真っ黒な瞳に、もう蕩け切った私の表情が映りこんでいる。それを見ているのが恥ずかしくてキスをねだっても、今度は、カレは焦らしてくる。頬を包み込み、指先で耳のふちをなぞる。 「やだ、やめて」  ぞくぞくとした感覚が全身に伝わっていく。壮真君は私の言葉を無視して、耳、唇、首筋をそっとなぞる。それじゃ嫌なのと目で訴えかける。カレはもう気づいているはずなのに、微笑むだけで何もしてくれない。 「ねえってば、壮真君……」 「ん? 亜美さん、どうかした?」 「だからぁ……」  もっとして欲しい。優しく触れるだけなんて、私の体はさっきのキスでもう我慢できなくなっているのに、ひどい。そう告げると、壮真君はまた優しく笑った。 「亜美さんのそういう素直なところ、好きですよ」  そう言って、再び深いキス。待ち焦がれていたそれに、今度は私からすがる様に絡みつく。互いの粘膜が触れ合う水音と荒くなっていく息が狭い玄関に響いていく。壮真君は私の背中を撫で回し、指先がブラに触れた瞬間、いとも簡単にそのホックを外してしまった。 「……んんぅっ!」  抗議したくても、口が塞がれている私には言葉を出す事も出来ない。壮真君はスカートのジッパーも下ろしてしまい、私のスカートは玄関にばさりと落ちていった。むき出しになった太ももを熱くなった掌で撫でまわしていく。 「だ、だめ……」  力を振り絞って、カレの胸を押し返した。 「だめ?」 「だって、ここ、玄関……」 「じゃあ、ベッドに行きましょうか?」 「シャワーだって浴びてないし……」  壮真君は私の手を握り、耳元に唇を寄せた。そして、こう囁く。 「それなら、一緒に行こう?」  眼鏡はそこに置かれたまま、私たちは浴室に向かう。  付き合い始めてから気づいた壮真君の癖の一つ。それが、キスの時の合図。カレが「それ以上」を望んだときだけ、眼鏡を外す。もっと深くなっていくそれが心地よくて、私もそれをねだってしまう時もある。  眼鏡を外した時のカレのまなざしは、いつもの優しさだけじゃないものが孕んでいる。カレの男性としての欲望がむき出しとなって、私を包み込む。私はいつの間にか、その感覚のトリコになってしまっていた。
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