強迫性障害、パンデミックと再会

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 夜風は静かに秋の海から吹いて来た。お台場の日向ホテルでは、水曜日の夜にあまり宿泊客がいない。白い電球が広いプールとプルサイドのチェア、あと一人だけの男性を照らしている。プールは静かで、水風呂の音もはっきり聞こえるほどだ。 「ハア、本当にラノベの賞を取れるのかな?」  26歳の清治は水風呂に寝ていて、静かに天井を見ながら、未完成の二編の小説のエンディングを考えている。清治の肌が白くて痩せている体は暖かい水に包まれ、まるで柔らかいベッドに寝ているようだ。 「頭から足まで、全ての筋肉が緩めるな……気持ちいい」  だが、休める時間が少ししかないと清治は分かっている。 「小説家になる夢が叶える日は、本当に来るのか?」  清治はコラム作家で、歴史と政治の文章を書くのが上手だ。その上、小説も書いている。いつか文学賞を取って小説家になる夢を持っている。しかし、彼は強迫症に罹って、頭に常に強迫観念が浮かぶせいで、創作が順調に進めない。  もちろん、シティホテルに泊まる今でも、清治は排泄物と邪術を思い起こされた。簡単に言えば、彼が心配しているのは不潔と死亡だ。小学校時代、親戚たちは叔父さん、母さんの家出した弟が家族を呪殺したという噂を流していた。清治は母さんに叔父さんのことを聞くと、「もしずっと叔父さんのことを考えれば、家に来るよ」に言われて、心の中で恐怖の種を蒔かれた。 「もし母さんが私を恐れさせなかったら、いい人生を過ごせるのに」 清治は叔父さんを思い出さないように頑張っていた。しかし、これは逆に叔父さんが自分の頭に「存在する」ことを繰り返して確認した。結局、中学二年生の時、清治は酷く強迫症に罹り、今まで治せない。  大学を卒業した後、清治は一度イギリスへ語学留学して、TOEICテストで九百点を取った。帰国した後、元々給料がいい仕事を見つけられたが、強迫症に苛まれた彼は、会社に入れずに、家で文章と小説を書くしかない。  清治の両親はペットショップを経営していて、年収は千万円以上だ。この仕事を継げばいいが、清治はいつか強迫症を直して作家になることを夢見ている。自分を強迫症に罹らせたお母さんが大嫌いだから。  強迫観念はまた浮かんだ。もし誰かプールで排泄したら、私が糞尿の池にいるじゃない……清治は力んで頭を横に振って、強迫観念を追い出そうと思う。 「あら、今日のプールは誰もいないかな?」  声が小さいが、耳が聡い清治はすぐに振り返った。黒いビキニを身に纏っている美人が更衣室を出たばかり、プールを見回している。  二人の視線が合うと、美人は微笑みながら、清治の方へ来た。
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