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「九州の田舎の実家に戻って、親戚が経営した温泉旅館で働こうと思うわ。私はやっぱり田舎の楽な生活が好きね。でも、清治君には輝く未来があるから、私と違って、東京で働き続けたほうがいいわよ」
清治は黙ったまま、れいなを見つめて、どう答えればいいか分からない。フェルデンクライス・メソッドを使って自分の複雑な気持ちを観察するしかできなかった……
ウェーターが北京ダックを持ってきて、この沈黙を破った。清治はまた口を開いた。
「れいなさん、コロナ禍が静まりましたし、私の強迫症も治ったので、全ての願望が叶えたと思いましたけど……ハア」
れいなが自分と違う世界の人だったと分かっているが、清治は我慢できずにため息をついた。
「また会えるわ。ため息をするなんて必要はない」
「いつも楽観的ですね」
れいなは優雅に箸で鴨肉、ネギ、きゅうりを薄餅に入って、ソースをつけた。皿には手袋があっても、れいなが箸で食べ物を挟んだことに清治は気付いた。この美人は真面目で手で食べ物に触ったら失礼だと考えるだろう。
「じゃ、フェルデンクライス・メソッドを聞きたいですか? それは自分を観察して、心身を共にリラックスできますよ」
「それは心理療法、或いは哲学なの? 面白そう!」
清治はれいなと楽しく喋っている。食事が終わった後、多忙の二人はいつ三度会えるか分からない。だが、二人は苦しみと楽しみを分かち合ったので、三度会う時、きっとお互いに笑顔を見せて「また会えたね!」と挨拶するだろう。
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