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「ほら、でてきた……なんだい、この子は!」  産まれてきた赤子の産声よりも大きく、女中の叫び声と産婆の驚く声が部屋に響き渡った。 「つ、ツノが生えているじゃないか! あんた、どうしてこんな子を……!」  産婆はへその緒を切り、産湯で赤子を洗いながら私を責め立てる。女中は慌てて駆け出し、生まれたことと……それが【鬼の子】であることを旦那様に伝えに行っていた。生み終えて息絶え絶えになっている私の顔の横に、まっさらなおくるみに包まれた赤子がやって来た。しわくちゃな顔をゆがませてまた泣きだそうとしている。私がその小さな手をつつくと、きゅっと力強くその指を握った。私の目からはボロボロと涙があふれるのを感じていた。頭に生えた一本の尖ったツノが、彼とのつながりを証明していた。  しばらく間を置いてから、旦那様が部屋にやって来た。 「……やはりな」  大人しいと思っていた嫁に裏切られた憎しみがそこには籠っていた。 「最後の情けだ、床上げまではここにおいてやる」 「ありがとう、ございます……」  旦那様はそう言い放って、部屋から出て行ってしまう。ウメさんはその後に続き、赤子をちらりと見てから、なんだか嬉しそうに笑っていた。  実家の両親にもすぐ連絡が行き、まるで矢のごとくお父様とお義母様がやって来た。 「この娘は、どうして私に迷惑をかけることしかできないの!? 愚図でのろまな母親に似たんでしょう!?」  私を責めるだけ責め立てて、お義母様は席を外してしまった。お父様も深く落胆している様子で私と赤子を見ることはなかった。けれど「親としての最後の務めだ」と言って、これから私がどうするべきなのか、話を始めた。  床上げが済んですぐ、私は華村家の屋敷を追い出された。その足で、実家が所有する、とある山村の奥にある、古ぼけた小さな屋敷に押し込まれた。実家の名を汚し、華村家にも泥を塗った私は外の世界とのつながりを断たれた。けれど、私にはそんなものは必要なかった。 「いい子ね、ユウスケ」  腕の中にいるこの子が、私を見てニコリと笑うようになった。それだけで十分幸せだった。あとは、鬼頭様さえ無事に戻って来てくだされば……それを願い続けて、数年の時が経ってしまっていた。 *** 「おかあさま、あそんできてもいい?」 「日が暮れるまでには戻ってくるのよ、いいわね」 「はーい!」  私はユウスケのツノを隠すように頭巾を被せて送り出した。  山村の豊かな自然がそうさせたのか、ユウスケは病気もしない健康な子に育ってくれた。私もこの数年の間に随分と丈夫になり、今では畑を借りて野菜や穀物を育てるようになったり、針仕事をして生計を立てていた。生活はお嬢様暮らしをしていた以前とは全く異なるけれど、母子二人で暮らすには十分だった。村の人たちは皆、私を憐れんでいる様子で何かと世話を焼いてくれる。……鬼に弄ばれ、見捨てられたかわいそうな女と子ども、そう陰で言われているのは知っていた。 「おかあさま、ユウスケはかわいそうなこどもなの?」  ユウスケにそんなことを言われたこともあった。きっと村人に何かを吹き込まれたに違いない。そんな時は、私はユウスケを抱きしめて彼の話をする。 「ユウスケは、お父様に愛されて生まれた子よ」 「おとうさまは、どこにいるの?」 「あなたのお父様は、今お国のために戦っているのよ。いつか必ず、帰ってくるわ」
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