その6・杉山さんとお弁当

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「杉山さん」  声を掛けると、彼女はびくっとして、ゆっくり振り向いた。 「は、はい、なんでしょうか」 「今度の土曜日、時間ある?」 「……はい?」 「朝から、たぶん三時くらいまで。夕方まではかからないと思う」 「大丈夫、ですけど……」 「これまで杉山さん見てて、自分でどこがわからないかすら把握できてないのかなと思ったの。だからその確認がしたくて。休みだから給料出ないけど」 「え! いいんですか?」  あれ?  さっきまでのびくびくしたのが、とれた? 「ぜひ! ぜひお願いします!」 「あ、うん、よろしく」 「お昼! お礼代わりにお昼、私が持参するので! 先輩は何も持たずに来てください!!」  なに、このやる気。  それから彼女は妙にごきげんで、その日の仕事はいつもよりもかなりうまくこなしたように見えた。
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