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「私、広瀬先輩がおられたからこの部署に配属されたんだそうです」
杉山さんが唐突に話しかけてくる。
「え?」
「広瀬先輩の事務処理能力の高さはとても評価されてて、きっと勉強になるからって」
「ひょ、評価とか、全然……」
「あれ? 言われてないんですか?」
寝耳に水だ。そんなの全然知らなかった。
「だから、入社前から広瀬先輩のこと、憧れてました。先輩みたいに仕事できるようになりたいなって。実際は全然だめですけど」
そう言って杉山さんは苦笑する。
「先輩に、ずっと謝りたかったんです」
「……何を?」
「ご迷惑をおかけしてばかりなことを」
「め、迷惑とか……」
思ってないよ、とは、申し訳ないけど言い切れなかった。
杉山さんはしょんぼりした様子で続ける。
「戸田先輩はクールだし、相手にされなかったとしても仕方ないなって思ったんです。広瀬先輩は、仕事もバリバリこなす上に、誰に対してもとても感じがよい方なのに、時間が経つにつれて表情がなくなっていって……。こんなできた方をいらつかせてしまうくらい、私がダメなんだなって、思って。なんとか挽回しようとがんばればがんばるほど、あせってミスしてしまって……」
なるべく淡々と接しているつもりだった。面と向かって叱責したことは一度もない。失敗があまりにもひどい時は、件の残業の時のようにさっさと交代した。
でも私の気持ちはバレてた。
彼女は何も考えずに笑顔でいた訳じゃなかったんだ。
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