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「お弁当、おいしかった……。ほんとにありがとう」
ひさしぶりに食べたちゃんとしたごはんは、胃の腑にしみわたるようだった。
むしろ、それで、最近ちゃんとしたごはんを食べていなかったということに気づいた。
私は大事なことにいつも気づかないままだ。
「そうですか! とっても嬉しいです! 広瀬先輩、甘いものお好きだから、ケーキも作ってきました!」
「え……」
「あれ? お嫌いでしたか?」
「いや、好きだけど、どうして?」
「おみやげのお菓子が配られた後いつもごきげんですし、忙しい時はおやつを持ち込んでおられるので」
そう言うと、ラップに包んだチョコレートケーキを手渡してくれる。
「どうぞ!」
笑顔で差し出されたケーキを震えながら受け取り、口に運ぶ。甘さとほろ苦さが口の中で広がる。
「杉山ちゃん……おいしい。おいしいよ、これ……」
食べながら、涙がぼたぼた落ちる。だめだ、と思うけど、どうしても止めることができない。
「疲れてる時は、甘いものがおいしいですよね!」
そう言って、杉山ちゃんはにこにこ笑いながら、備品の箱ティッシュをそっと差し出してくれた。
「ご、ごめ……」
「大丈夫ですよお。今日は仕事じゃないんですから!」
気づかなくて、ふがいなくて、優しくなくて。私はほんとやなやつなのに。
よく思われてないって気づいてたのに、悟らせないようにしてくれてた。私のことを見てくれてて、慕い続けてくれて、笑顔で好意まで伝えてくれた。
彼女はタフだ。その強さとまっすぐな気持ちに、私は今とても慰められている。
この日、杉山ちゃんが私を救ってくれた神様に見えた。
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