その7・腹が減っては戦ができぬ

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 戸田ちゃんも何か思うところがあったのだろう。複数の作業を並行してテンパっている杉山ちゃんに声を掛けて内容整理をしやすくしてくれたり、おつかれさまと言ってそっと差し入れのお菓子を手渡したりするようになった。仕事はそつなくこなすけど、誰に対しても必要以上に関わることはしない子だったから、なんだかその変化が嬉しい。  自分でやった方が早いものも、少しずつ杉山ちゃんに回すことにした。最初は私の三倍くらいかかってやっていた杉山ちゃんも、だんだん慣れてきて、私より少し遅いくらいのペースで仕上げられるようになってきた。この調子なら、私と同じくらいのペースで仕上げられる日も近そう。それを見た戸田ちゃんが、広瀬ちゃんが急病とかで休んでも杉山ちゃんに回せるから安心だね、と言ってくれた。  そうか、これが本当の仕組みづくりか。  杉山ちゃんのために始めたはずなのに、むしろ私が学んでいることの方がずっと多い。  仕事は、問題点が見つけやすいし、やった分だけ成果が出るから達成感も得やすい。けれど、生きる上で大事なことは、大抵、問題点そのものがなかなか見えない。  ただ、見えなかったとしても、結果がどうなろうとも、そろそろ立ち向かうべき時が来ている、そんな気がした。  佐藤と話をしなければならない。  佐藤と付き合うか否かでも、私のことを大事に思ってくれていたかの確証を得るためでもなく、自分の中での区切りをつけるために。
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