その7・腹が減っては戦ができぬ

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 ようやく腹を括ったものの、肝心の佐藤に直接話しかける機会が巡ってこない。極力私と行動がかぶらないようにしてやがる、あいつ、そういうとこある! 直で無理なら、電話とSNSってもんがあるんだよ! 現代には!!  昼休みに連絡を取ってみることにした。電話は、商談中だったらまずいし、かける勇気がやはりまだ出ない。SNSは、会わなくなって以来、アプリ自体を立ち上げてなかった。ブロックされてたらされてたでその時だ、とおそるおそる立ち上げてみる。  文面を考える。大体、文章を書くこと自体、あんまり得意じゃないのに、この難易度高い課題……。悩んだ末にこう打つ。 〈今夜、牛丼食べに行こう。奢るから。〉  色気もなにもあったもんじゃない。でも、きっかけが牛丼なんだから、食べに行くなら一番ふさわしい気がした。そして、「行ける?」って書いたら「行けない」って返しやすくなる気がしたから、さりげなく言い切ってみた。  佐藤、そういう文章、すごく上手いんだよね。誘導テクニックみたいなの。あいつ、ほんと、そういうクズいとこある!  意を決して送ると、意外なことにソッコーで既読がついた。  佐藤、読んだ。どう返してくる? それとも、既読無視……?  五分ほどして、返事が来た。何が書かれているか、ちょっと怖い。おそるおそる見る。 〈了解〉  たった一言だったけど、切れそうな糸がつながった気がして、ほっとする。 〈終業後にまた連絡する。〉  そう送ると、それもすぐに既読がついたけど、今度は返事がなかった。  今日も佐藤は直帰だ。終業後にもう仕事は終わったかと送ると、ちょうど終わったと返事が来たので、件の牛丼屋の前で直接待ち合わせることになった。
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