その7・腹が減っては戦ができぬ

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 いただきますと言って、ゆっくり口へ運ぶ。  お腹もすいてたし、まずくはない。まずくはないけど、あの時みたいなおいしさは感じられない。今思うと、あの時の牛丼は、これまでの人生で一番おいしい牛丼だった。  ああ、と唐突に納得した。  全然気づいてなかったけど、奢ってもらうのが決まった時点で、私は佐藤に好意を抱き始めてたんだ。  佐藤と初めて関係を持った翌日、どうしてこうなった? とずっと考えていた。  奢ってもらうのは問題ない? そんなことない。だって、私、嫌いな人間と食事なんか、したくないもの。これまで、そんな時は、用事があるからとか気持ちだけで充分とかってやんわり断ってきた。でも、佐藤の誘いは、全然嫌じゃなかった。むしろそれを励みに残業をがんばった。無意識に抱いていた好意と、佐藤の雰囲気が、あの日の牛丼をよりおいしくしていた、そんな気がしてならない。  ちらりと横の佐藤をうかがう。佐藤は気づかずにゆっくりと食べ続けている。一緒にいた頃みたいなおいしそうな表情は、カケラも見つけられない。  今、佐藤は困惑してる。いや、迷惑で不快なのかもしれない。こんなぎくしゃくした空気で、おいしいと感じるのは、難しいよ。
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