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「私、佐藤の声が好きだよ。すごく」
顔は好みじゃないはずなのに、私は佐藤の何に反応してしまったんだろうか。もちろん好きに理由はないんだけど、そう考えた時に、気づいたこと。
声は、すごく好みだ。よく響く優しい声。佐藤のこと、そういう目で見たことがなかったから、気づいていなかったんだ。ほんと、私、興味のないことに全然気づけない。
「だから佐藤の声で、名前呼ばれたいし、気持ちを伝えてほしいの」
「すごい、殺し文句」
そう言って佐藤はまたしばらく黙ってしまった。ふーっと息を吐いて、続ける。
「遥、好きだ」
初めてそう言われて、心の氷が溶けたような気持ちになる。最初の行為の意味が本気なのかただの流れだったのかわからなくて、一緒にいて楽しくても嬉しくても、常にどこかにあった引っ掛かりが、この一言で霧散する。
「……俺、何、出し惜しみしてたんだろ」
しばらく私の顔を見つめ続けていた佐藤が、ぼそりとつぶやくように言い、少し困った顔をする。
「行動で示すべきだし、言葉にするなんて陳腐だって思ってた。けど、たった一言で、こんな安心した顔になるなんて」
もうだめだった。ふれずにはおれなくなって、佐藤に抱きついた。佐藤はそんな私を優しく抱きしめ返してくれる。
「ごめん。これからはもっと言葉にする」
嬉しい、とか、ありがとう、とか、いろいろ思うのに、言葉が出ない。
感極まったら言葉にできない。佐藤もこんな気持ちだったんだろうか。
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