その8・牛肉食系女子の逆襲

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 もっとふれたくて、たまらなくなって、どちらからともなくくちづけを交わした。今までもっと濃厚なキスはたくさんした。でも、この、ふれるだけのくちづけがたまらなく甘美で。佐藤の熱と湿度と感触を、ゆっくりと味わう。 「初めて、キスした気がした」 「俺も」 「私達、台所で立ちっぱなしだね」 「ほんとだ」 「ちゃんと部屋に入ろう」 「うん」  そう言った佐藤の表情は、すっかり笑顔に戻っていた。  とりあえず、寛いでもらおうと、背広を脱いで座ってもらった。背広をハンガーに掛けると私も横に座る。  牛丼屋と同じ並びなのに、全然気持ちが違う。言葉がなくても空気が心地よい。 「好きとか愛してるとかは、口にすると価値が下がる、みたいに思ってる男の人、結構いるから、言いたくなかったの、わかる気がするんだ」  そう言って私は佐藤の方を見る。 「でも、名前は?」  そういう人でも、名前くらいは呼ぶ気がする。なんでかたくなに呼ばなかったんだろう。 「……名前、呼ばれたくないのかと思ってた」  しばらく口を半開きにしていた佐藤が、ぼそりと言う。 「なんで?」 「俺のこと、ずっと、佐藤って呼ぶから」
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