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 しばらくの沈黙の後、今度は(かい)が口火を切った。 「僕は愛着障害について少しばかりですが啓蒙(けいもう)されましたが、さっきおっしゃっていた協力とは何ですか? 僕は何を協力すればいいんです?」 「それなんですが、愛着障害によるものかどうかはわからないのですが、ナオミもさまざまな体の症状を訴えるので、定期的に通院することにしたんです」 「え? それって合併症みたいなものですか?」 「それは、わかりません。私たちに構ってほしいがために訴えてくるということもあります。でも、ナオミは普段から高血圧で、頭痛腰痛があるのです。成長も見た通り小学生4年生ぐらいで、おそらくホルモンが関係していると思われます。少しでも苦痛を和らげるためにも通院を決めました。ということで……」 「ということで?」 「2週間に1回このハーバーの前を通ります。もうヨットには乗らないとナオミとは約束しましたが、あまりにも海を見るのを楽しみにしているので桟橋までは、来ることがあるかもしれません。これもナオミの気分次第なので、どうなるか分かりませんけど」 「ああ、僕は全くかまいませんよ。僕も愛想は良い方ではないので、ナオミさんが来てもずっとだんまりかも知れませんね。おんじさんには、僕からプライベートに差しさわりのない程度で話しておきます」 「そうですか。またナオミが失礼なもの言いをするかも知れませんが、どうかご理解をお願いいたします。叱るべきところは叱ってもらっても構いません。ただ、ナオミが納得できる言い方でしていただければと思います。それでも納得しなかったら私とナオミとでじっくり話します。ご無理な事を申し上げてすみませんがよろしくお願いいたします」  昌子は、立ち上がって深々と頭を下げた。(かい)は、ナオミも昌子も普通の人間だ、そんなにへりくだることは無いだろうと思った。そして、昌子より深く頭を下げた。  数日後、バイト日。  吉原(よしはら)(かい)は、ふと潮の香りを感じ深呼吸をした。この香り、以前にも体で感じた……。  そう、確かに体で感じた香りだ。  ナオミに初めて出会った日の潮風の香り。  (かい)は、人の気配を感じ振り向く。  そこには、ナオミが一人で立っていた。  潮風に前髪が震えるようになびいている。そして、    そして、はにかんで(かい)を見て言った。 「また会えたね」                                  Bon Voyage!
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