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⑧
しばらくの沈黙の後、今度は海が口火を切った。
「僕は愛着障害について少しばかりですが啓蒙されましたが、さっきおっしゃっていた協力とは何ですか? 僕は何を協力すればいいんです?」
「それなんですが、愛着障害によるものかどうかはわからないのですが、ナオミもさまざまな体の症状を訴えるので、定期的に通院することにしたんです」
「え? それって合併症みたいなものですか?」
「それは、わかりません。私たちに構ってほしいがために訴えてくるということもあります。でも、ナオミは普段から高血圧で、頭痛腰痛があるのです。成長も見た通り小学生4年生ぐらいで、おそらくホルモンが関係していると思われます。少しでも苦痛を和らげるためにも通院を決めました。ということで……」
「ということで?」
「2週間に1回このハーバーの前を通ります。もうヨットには乗らないとナオミとは約束しましたが、あまりにも海を見るのを楽しみにしているので桟橋までは、来ることがあるかもしれません。これもナオミの気分次第なので、どうなるか分かりませんけど」
「ああ、僕は全くかまいませんよ。僕も愛想は良い方ではないので、ナオミさんが来てもずっとだんまりかも知れませんね。おんじさんには、僕からプライベートに差しさわりのない程度で話しておきます」
「そうですか。またナオミが失礼なもの言いをするかも知れませんが、どうかご理解をお願いいたします。叱るべきところは叱ってもらっても構いません。ただ、ナオミが納得できる言い方でしていただければと思います。それでも納得しなかったら私とナオミとでじっくり話します。ご無理な事を申し上げてすみませんがよろしくお願いいたします」
昌子は、立ち上がって深々と頭を下げた。海は、ナオミも昌子も普通の人間だ、そんなにへりくだることは無いだろうと思った。そして、昌子より深く頭を下げた。
数日後、バイト日。
吉原海は、ふと潮の香りを感じ深呼吸をした。この香り、以前にも体で感じた……。
そう、確かに体で感じた香りだ。
ナオミに初めて出会った日の潮風の香り。
海は、人の気配を感じ振り向く。
そこには、ナオミが一人で立っていた。
潮風に前髪が震えるようになびいている。そして、
そして、はにかんで海を見て言った。
「また会えたね」
Bon Voyage!
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