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 ナオミは、すぐに昌子にヨットに乗ったことを嬉しそうに話している。 「あの、どうもご無理を言って申し訳ありませんでした。この子には、いろいろと事情がありまして。おかげさまで気分も落ち着いて、楽しかったようです」  昌子は、(かい)に深々と頭を下げた。そして、ナオミに言った。 「お礼を言って」  ナオミは、にこりともせず小さい声で、 「ありがとう」  と顔も合わさず言った。 「はあ、何かお役に立てたのならそれで……」  それくらいしか、(かい)は返す言葉を思いつかなかった。  ナオミと昌子そして、その他2人の男性指導員は連れ立ってハーバーを出て行った。病院の方に向かっている。 「何だいまのは? 女の子はちょっと可愛いかったけど、すげー愛想が悪かったな」  おんじが、桟橋でしゃがんで(かい)に話しかけてきた。 「うん。何か変わった子だったよ。病院に行くって言ってたから何か病気なのかな?」  船外機にカバーをかけながら、(かい)は、言った。 「また、来るかな?」  と、おんじ。 「いやもう、来なくていいです」  正直な感想だった。  三日後。  (かい)は、ハーバーで契約しているオーナーのヨットをメンテナンスするバイトをしている。毎週3回ハーバーにきてメンテナンスをする。  昼食をすませて、1艇1艇、船体のチェックをしている時だった。背後から女性の声。 「あのう、すみません。先日ナオミがご迷惑をおかけしたヨットの方ですよね」 「え? ああ、ヨットに飛び込んで来た子の……。確か児童養護施設の先生……でしたよね」 「はい、私、児童養護施設優光園(ゆうこうえん)の指導員をしてる相模原(さがみはら)昌子(まさこ)といいます。先日ここへ来た園生の沢村(さわむら)ナオミの支援担当をしています」  昌子は、名刺を出した。 「はあ、どうもご丁寧にすみません。僕は、鳴門海洋大学の4年生で、吉原(よしはら)(かい)といいます。御覧の通りここでバイトをしています。あの時は、何かバタバタして、僕もよくわけが分かりませんでしたけど。あの子、ナオミさんはその後大丈夫だったんですか?」 「ええ、おかげさまで、何とか落ち着いて病院に行くことができました」 「そうですか。あの、不躾(ぶしつけ)な質問ですが、ナオミさんは、何か病気なんでしょうか? あのような行動の子を見たのは初めてだったものですから……。あの、不都合なら別にお答えにならなくてもいいんですが」 「ええ、そのことでお話があって、今日は参った次第です。もしお時間がよろしければ……。」  昌子の畏まった物言いに、立ち話では済まないと悟った(かい)は、 「何か、込み入ったお話ですか? じゃあ、このハーバーのカフェで聞きますよ」  と言って、ヨットハウスのテラスにあるカフェに昌子を案内した。
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