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⑦
「は? あいちゃく……障害……。愛着? あの発達障害ではないのですか」
「それは、今後の研究だと思うのですが、今は、発達障害とは区別しています。というのは、発達障害に対するアプローチと同じことをすると逆効果になる事もあるのです」
「はあ、で、その愛着障害ってどんな障害なんですか?」
「他人とのごく普通の関係の仕方がわからなかったり、逆に他人にべったり頼ってしまうという極端な特徴があるのです。それらのことが『感情』に現われる。ナオミの場合は、他人との心理的な距離や関り方、表現の仕方がわからないのです。それにイラつき、自分を責めたりする行動になったりするのです」
「人との普通の関り方がわからない? それは……。辛いや……」
「愛着というのは、保護者と結ぶ感情的な絆のことなんです。一般的な家庭では、親や祖父母などの保護者がいたり、兄弟姉妹がいたりして、安全で安心できて自由にふるまえる関係性ができ、その中で、絆ができていきますよね。この発達をどこかで妨げられると愛着障害になり、主に『感情』の問題として現れるのです」
「たしかに、ナオミさんは、いつも不機嫌でしたね。でもヨットから降りた後、先生には笑顔を見せていたじゃないですか。あれは?」
「それは、私とナオミとの絆ができつつあるからなんです。完全にナオミとの絆ができていれば、そもそも彼女がヨットに逃げ込むこともないのですけどね。まだまだ、私と彼女の信頼関係は十分には構築されてません。途上ですね。いつできるのか……」
「愛着障害って理解が難しいんですね」
「まあ、難しく見えるかもしれませんが、私はそうは思いません。正しい知識を得てその人に合った対応をすれば、障害があってもより良い生き方ができると思います。ただ……。今の学校教育の中で、愛着障害がどれほど理解されているのだろうかと疑問に思うのです。発達障害については理解も進みいろいろな支援がなされているのですが……」
「そうですね。愛着障害という言葉も僕は今回初めて知りました。学校では、十分な理解や対処がまだまだということもわかります」
「ええ。それと、この障害の理解が難しいと思われているのは、愛着形成が未発達なために起こるからなのです。発達障害は、脳の機能障害など先天的な要素が高いのですが、愛着形成は、保護者との関係によるものが大きいので後天的な要素が高いのです。つまりナオミの成育環境ですね。あの子は、虐待……育児放棄(ネグレクト)ゆえ愛着形成未発達になってしまったのです」
「そうか、それって、ナオミさんだけの問題じゃなくて家庭の問題でもあるわけですね。そこまで学校の先生が立ち入って対処するのは、今の学校じゃ無理ですよ」
「はい、でも愛着障害を知って、早めにこの障害を持つ子どもに気が付けば、こじれる前に対処することもできると思うのです」
昌子は、コーヒーに口を付けて海の彼方を見た。海は、そのしぐさに昌子がナオミとここまでの関係になるには、長い時を必要としたのだろうと思わずにはいられなかった。
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