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天道へ続く道は、先ほどのおぞましい道とまるで違っていた。
光の粒が雨のように降りそそぎ、それらが重なりつながり合って、足もとを照らしてくれた。
道の端には金の稲穂が揺れて、どこを見渡しても一点のかげりもない。
少年は自分もまた、光の一部になったような心地がした。
夢を見るような気持ちで歩いていると、肩のうしろから小さな赤いものが飛んできた。
「おうおう、にいちゃん。今から行く道、このオレが案内するぜ」
はじめは、誰が話しかけてきたのかと不思議に思った。しかし周りに誰もいないのを確認すると、声をかけてきたのがその小さな赤いものだと分かった。
てんとう虫だ。
赤い身体に黒い斑点のある、ごくごく一般的な。
生きていたときに、公園や小学校の花壇でよく見かけた。ただし、人の言葉をしゃべるという点において、他のどんな虫より珍しかった。
「天への道先案内人といえば、このてんとう虫さまよ。で、お前ェの名は」
「あ、はい。ぼくは長谷川雪兎っていいます」
「オーケーオーケー。ユッキーな! じゃ、このオレについて来な」
「ついて来なも何も、この先は一本道みたいだけど」
「細けぇことはいいんだよ。ユッキーは余計な心配せずに、黙ってオレのあとに従えばいいの」
小さいくせに、妙に偉そうな口ぶりのてんとう虫だった。案内なんて頼んでないし、道に迷ったわけでもないのに勝手に先導しようとする。
おかしな連れができてしまったなぁと思ったものの、雪兎はほんのちょっと嬉しかった。
父や母と離れ、ひとりぼっちで見知らぬところへ放り出された。誰でもいいから、なんでもいいから話がしたかった。相手が小さな虫だって、なんだって構わなかった。
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