天の道先案内人

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「案内人というからには、ちゃんと説明してやらねぇとな。まずユッキーは何を知ってる?」 てんとう虫は、雪兎(ゆきと)の鼻先を浮きつ沈みつしながら飛んだ。目の前でちらちらするそれを追いながら、雪兎は深く悩まずに思うままを答えた。 「知らない道をえんえんと歩かされてること。天道とかいう場所を目指してること」 「そう! 今まさにお前は、輪廻転生(りんねてんしょう)の輪の中に組み込まれてるわけだ。つまり、これから新しい生命(いのち)に生まれ変わる」 てんとう虫先生は、雪兎の知らないことを教えてくれた。 〝生まれ変わり〟という仕組みには、生前の悪い行いが関係している。その行いによって六つある世界のうち、いずれかに生まれ落ちるのだという。 六つの世界ーー。 地獄道、餓鬼道(がきどう)、畜生道、修羅道(しゅらどう)、人間道、天道、それらをまとめて「六道」と呼ぶ。 六道についても簡単に説明してくれた。 言葉に言い表せないほどの責苦(せめく)を受ける地獄道。 飢えによって苦しみ、最終的には骨と皮だけになってしまう餓鬼道。 犬や猫などの動物として生き、弱肉強食の不安と恐怖に(さいな)まれる畜生道。 鬼神である阿修羅が住むゆえに争いが絶えず、身も心もすり減っていく修羅道。 「人間道ってのは、すでにユッキーも経験した世界だろ? なら説明するまでもねぇな。 そんでオレたちが今、向かってるのが天道ーー天界だ。快楽に満ちた世界らしいが、悲しいことがまったくないわけじゃねえ。迷い悩むこともあれば、寿命も一応ある」 話を聞く限り、天界はおそろしい場所ではなさそうだった。むしろ六つ道の中では一番幸せになれそうだ。雪兎はほっと胸をなでおろす。
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