36人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひいおばあちゃんに会えるかな」
「ひいばあさんだあ?」
「うん。ひいおばあちゃんは、ぼくが小学二年生のときに死んじゃったんだ。ちょっとボケてたけど優しかった。遊びに行くといっつもアンパンをくれたんだ。
天道がいくら幸せな世界だって、友達もいないところにひとりで行くのはやっぱり心細いし……知ってる人がいたほうがいいでしょ?」
おばあちゃんの膝の上に座って、またお手玉やあやとり遊びを教えてもらいたい。
あの皺だらけの手で、頭をなでてもらいたい。
「はあ、さっすが天道に選ばれただけあって、思考がお気楽だねえ。それぞれの道に入ったら、たいていは前世の記憶なんかふっ飛んじまうだぜ。まあ、たまにラッキーで覚えてるやつもいるけどな。このオレみたいにな!」
「いいなあ、ぼくも覚えてたいなあ。お父さんやお母さんのこと、ぜったい忘れたくないし。この景色だってすごく綺麗だし。親切なてんとう虫さんにも会えたし」
雪兎の足どりが軽やかになる。だんだんと声もはずんで大きくなる。
なんだかわくわくしてきた。
てんとう虫は聞いているのかいないのか、しばらく無言だった。でも、少ししてからぼそりと言葉を返してきた。
「どうしてもってんなら神さまに頼んでみたらどうだ? 普通はそんな願い、聞き入れちゃもらえねえけどな」
虫なので表情は読めず、何を考えているのか分からない。心なしか、言葉にとげがあるように感じたけれど……。
「てんとう虫さんは、なんで道先案内なんかしてるの? てんとう虫って生き物はみんなそうなの」
「へ。まあなあ。名前からして天道虫だろ? オレたちは神の使いってわけよ。よく幸せの象徴だぁなんだって言われるけど、まさしくそうだ。オレたちは頼る者がなくて不安な魂に寄り添って、天へ導く手伝いをしてやってるんだ。
だからな、草むらでてんとう虫を見かけたら、絶対に無理に捕まえたりするんじゃねえぞ」
雪兎は可愛らしいてんとう虫のドスのきいた声に、力強く頷いた。
「さあ、おしゃべりはここまでだ。ついたぜえ。あれが天道の門だ。いやあ、いつ見ても壮観だな」
そう言うとひと休みのつもりか、てんとう虫は雪兎の肩にとまった。
最初のコメントを投稿しよう!