天の道先案内人

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「ひいおばあちゃんに会えるかな」 「ひいばあさんだあ?」 「うん。ひいおばあちゃんは、ぼくが小学二年生のときに死んじゃったんだ。ちょっとボケてたけど優しかった。遊びに行くといっつもアンパンをくれたんだ。 天道がいくら幸せな世界だって、友達もいないところにひとりで行くのはやっぱり心細いし……知ってる人がいたほうがいいでしょ?」 おばあちゃんの膝の上に座って、またお手玉やあやとり遊びを教えてもらいたい。 あの(しわ)だらけの手で、頭をなでてもらいたい。 「はあ、さっすが天道に選ばれただけあって、思考がお気楽だねえ。それぞれの道に入ったら、たいていは前世の記憶なんかふっ飛んじまうだぜ。まあ、たまにラッキーで覚えてるやつもいるけどな。このオレみたいにな!」 「いいなあ、ぼくも覚えてたいなあ。お父さんやお母さんのこと、ぜったい忘れたくないし。この景色だってすごく綺麗だし。親切なてんとう虫さんにも会えたし」 雪兎の足どりが軽やかになる。だんだんと声もはずんで大きくなる。 なんだかわくわくしてきた。 てんとう虫は聞いているのかいないのか、しばらく無言だった。でも、少ししてからぼそりと言葉を返してきた。 「どうしてもってんなら神さまに頼んでみたらどうだ? 普通はそんな願い、聞き入れちゃもらえねえけどな」 虫なので表情は読めず、何を考えているのか分からない。心なしか、言葉にとげがあるように感じたけれど……。 「てんとう虫さんは、なんで道先案内なんかしてるの? てんとう虫って生き物はみんなそうなの」 「へ。まあなあ。名前からして天道虫(てんとうむし)だろ? オレたちは神の使いってわけよ。よく幸せの象徴だぁなんだって言われるけど、まさしくそうだ。オレたちは頼る者がなくて不安な魂に寄り添って、天へ導く手伝いをしてやってるんだ。 だからな、草むらでてんとう虫を見かけたら、絶対に無理に捕まえたりするんじゃねえぞ」 雪兎は可愛らしいてんとう虫のドスのきいた声に、力強く頷いた。   「さあ、おしゃべりはここまでだ。ついたぜえ。あれが天道の門だ。いやあ、いつ見ても壮観だな」 そう言うとひと休みのつもりか、てんとう虫は雪兎の肩にとまった。
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