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ハスの花から、聞き覚えのある重低音で『何用か』と声が聞こえる。雪兎はあっと思う。
それは六道の分岐点にいた、あの大きなお地蔵さまの声だった。
「あ、もしもし閻魔さま? ちょっとお、困りますよ。六道分岐点で大地蔵の目を借りて、すべて見ていらっしゃいましたよね? なら、その場で止めてくださらないと」
どうやら、文机の端っこに置かれたハスの花は、通信するための道具だったらしい。
そして今話している相手は、よくテレビや本に登場する冥界の王、閻魔さまのようだ。
「あなたがいい加減な仕事をするから、招かれざる客が天道へもぐり込んじゃったじゃないですか。
え? 雪兎少年とてんとう虫が何をしでかすか見てみたかったですって。冗談じゃありませんよもう! 毎度あなたの気まぐれに振りまわされるこっちの身にもなってください。連れ戻すとなればいろいろと面倒な手続きが発生するんですから。
こうなったからには、厳正なる処罰をお願いしますよ」
雪兎は、どきどきしながら二人の会話に耳を傾けていた。
「ああ、そうそう。侵入者をつかまえて処遇を決めるまでの間、こちらで雪兎さんを預からせていただきます。彼には、六道の道先案内人をお願いするつもりです。ええ、この子なら、右も左も分からない小さな魂たちに寄り添ってあげられると思いまして。はい、はい。ではそのように」
通信が終わると、受付地蔵さまの柔和な表情がさらにほころんで見えた。
「雪兎さん。オーケーですって。良かったわね、今日からしばらくの間よろしくね」
「あ……はい! よろしくお願いします。お地蔵せんぱい」
雪兎は元気よく頭を下げた。
ほっとする同時に、雪兎の胸中にまた別の心配ごとが頭をもたげてくる。
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