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暗くて冷たい場所を歩いていた。
たとえるなら海の底。だけど海の底じゃない。
足もとの道がどこへ続いているのか。
少年は知らなかった。
自分がどこへ向かうべきか、そのことだけを知っていた。
道を歩いているのは少年だけではなかった。
若い者も老いた者も、はては人間ではない者までも、ぞろぞろと歩いていく。
一本道を、同じ方向へ。
重たい空気を引きずるようにして進みながら、少年は道ゆく者たちの存在を、肌で感じとっていた。
しばらく行くと、道が枝分かれしていた。
行き先は六つ。
ちょうど分岐点となる場所には、見上げるほど大きなお地蔵さまが座っていた。
道ゆく者たちはみな、必ずその大地蔵の前で止まる。どうやら、あのお地蔵さまが六本の道のうち、どちらへ進めばよいかをさばいているようだ。
少年の番がやってきた。
少年はうわずった声であいさつした。
「こ、こんにちは。あ、暗いからこんばんは?」
「どちらでもかまわぬ。ふむ。おぬしはすでに裁きを受けておるな。さて示された道の名を答えよ」
のっぺりしたお地蔵さまの顔が、ぐんとこちらに迫ってくるような気がした。
「はい。あのう、ぼくは天道というところへ行きたいんです」
「天道」
腹の底をえぐるような声音だった。
地蔵のまぶたが開き、じいっと少年の瞳をのぞき込む。
「嘘をつくと、悲惨な末路が待っているぞ」
見透かすような視線にさらされ、少年のうなじに鳥肌がたった。
だめだ、ここで目を逸らしちゃだめ。
本能的にそう感じて、少年はかろうじて、お地蔵さまのひたいあたりに視線をぬい止めた。
「嘘じゃありません。ぼく……ぼくは死んでしまったんですよね? 自分がそうなった瞬間のことはよく覚えてないけど、ここへたどり着くまでの間に不思議な声を聞いたんです。『めぐる先は天道にある』って」
大地蔵はなおも疑り深い目で少年を見すえていたが、やがてゴ、ゴという地響きとともに向きを変え、道を開けてくれた。
息苦しさから解放されて、少年はへたり込みそうになったが、立ち止まってはいられない。足に力をこめて前へ進む。
ドキドキ鳴る心臓はもうないのに、自然と胸のあたりをおさえていた。
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