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罪綴じ島
塩原裕二は船に乗せられた。行き先はいくら聞いても教えてもらえない。まず、彼がどのような人物なのか、少しだけ紹介しよう。
塩原裕二、21歳。独身。子供の頃から不真面目で、中学の頃は、札付きの不良になっていた。高校に入るとバイトをするも、トラブルを起こし、すぐにクビ。半月持てばいいほうだ。
母は医者、父は弁護士で、どちらも本を出版するほどの有名人だが、ふたりの優秀な遺伝子は、これっぽっちも受け継がれず、喧嘩に明け暮れていた。
両親は去年事故で他界し、7000万円もの遺産が転がり込むも、すぐに使い潰してしまう。金と共に女が離れる。
リッチな生活をし続けていたため、金銭感覚が狂い、凡人の生活はしたくないからと銀行強盗をし、逮捕された。
銀行強盗の他に、恐喝や放火などをしていたことも判明する。
つまり、塩原裕二は犯罪者だ。彼は逮捕され、すべての罪を暴かれ、容疑を認めると、この船に乗せられた。先述にもある通り、いくら聞いても行き先は教えてもらえない。
「いったいどうなってんだ?」
押し込められた部屋を見回す。塩原は船に乗せられたと思っているが、これは普通の船ではなく、小型のフェリーだ。勉学や常識と縁のない塩原は、フェリーというものを知らなかった。
室内には冷蔵庫、電気ポット、ベッド、机、棚がある。冷蔵庫の中には飲み物が数種類入っていて、冷凍庫にはメイン料理になりそうな冷凍食品が揃っていて、アイスまである。
棚の中には数種類のお茶やドリップ珈琲、カップ麺があった。1週間は食事に困らないだろう。
安心感より、不気味さが勝った。
犯罪者に快適な空間を与えるなんて、どう考えても不自然だ。文句の付け所があるとすれば、食事バランスが明らかに崩れることだが、この異質空間の中では些細な問題だ。
塩原は部屋をよく調べることにした。入った時は部屋の豪華さに驚いて気づかなかったが、ドアがふたつある。それぞれ調べてみると、風呂とトイレだった。大きな浴槽は、成人男性が足を伸ばして入っても余裕がありそうだ。
おまけに数種類もの入浴剤まである。
不気味さは一層強まった。
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