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クローゼットには、手触りの良い服や下着、パジャマがそれぞれ10着もある。
「もしかして、こういうことか?」
塩原は取り調べを思い返す。すべての犯罪について話し終えた後、奇妙なアンケートを渡された。アンケートには服のサイズや寝る時の服装、アレルギーの有無や食べ物の好みなどの質問が並べられていたのだ。
アンケートを手渡してきた刑事は、「変な質問だと思うが、重要なことだ。空白がないように真面目に書け。それがお前のためだ」と言われた。
服のサイズを調べると、どれもLサイズ。つまり、塩原のサイズばかり。
食料品も確認してみると、どれも塩原が好むもの、食べられるものばかりで、嫌いなものはひとつもない。
次にテーブルの引き出しを調べる。結論から言うと、一番上の引き出し以外は皆空だった。
唯一見つかったのは、品のいいメッセージカードのみ。カードには『目的地まで4日から6日ほどかかります。快適な旅を』と書かれている。
「マジで気色悪い……」
人は与えられすぎると返って不安になる。やましいことがあるなら、なおさら。
逃げようにも、ここは海。そもそも鍵をかけられてしまったので、部屋から出ることすら不可能。
塩原は不気味なほど快適な船旅をするしかない。
4日後、船はどこかに落ち着いた。この4日間、塩原は船旅を楽しめた。
最初は不気味でしかなかったが、テレビをつけてみると、自分好みの映画や音楽が揃っていたのだ。娯楽を見つけると、単純な塩原は警戒を解き、自堕落な生活をしていた。
正直に言えば、もっとこの部屋にいたいくらいだ。
看守の指示に従い、渋々フェリーを降りると、寂しい風景が広がっている。目の前には背の低い雑草が生い茂っていて、ちょうど塩原が降りた地点から続く道だけが、綺麗にまっすぐ伸びている。
まるで子供が描いたようなまっすぐな道。テレビゲームのマップにあるようなまっすぐな道。
「この道を進め」
「分かった」
看守に言われるまま、塩原は道を進む。フェリーに乗る際、降りたら看守を突っぱねて逃げようと思っていたが、頭に靄がかかり、思考がまともに働かない。
ただ、看守の言葉に従えばいい。頭にあったのは、それだけ。
歩き進んで気づいたのは、ここは小さな孤島ということ。
神経質な庭師でもいるのか、道には草1本すら生えていない上に、恐ろしく直線である。その上、凹凸もなく、歩きやすい。
道や雑草を見ながら歩いていると、影が降ってきた。
何事かと見上げると、目の前に立派な神殿がそこにある。
「こんなもの、なかったよな?」
直径1kmあるかどうかというほど、小さな島。そんな印象が強い島に、これほどまでに立派な建物を建てるスペースなど、存在するとは思えない。それ以前に、いきなり目の前に現れたのが理解できない。
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