罪綴じ島

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 神殿の扉は塩原を迎え入れるように開いた。普通の人なら、入るのに躊躇するだろう。だが塩原は、何かに取り憑かれたように、ふらふらと入る。  この中に入れば、素晴らしい何かが待っている。靄のかかった頭で、薄っすらそれだけを確信しながら。  廊下を歩き進めていくにつれ、思考がクリアになっていく。  何故囚人である自分が、絢爛豪華な神殿にいるのか? この神殿はなんのためにあるのか? 何故急に現れたのか?  疑問が炭酸飲料の泡のように、次から次へと沸いてくる。  昔は、囚人をぶち込むためにケイムショというものが存在したらしい。今はそんなものはないし、ケイムショがどんなものかを詳しく知っている者はほとんどいない。  捕まった犯罪者が、どこに行き、何をするのかを知る者は、ひとりもいない。少なくとも、一般人には。  例えようのない恐怖に、体が震える。だが足は前へ前へと勝手に進む。  自分はどうなるのだろう? 死ぬのだろうか? 死ぬって痛いのだろうか?  犯罪を犯したが、死ななければならないほど、重い罪だっただろうか?  何故自分は、先程まで「ここに入れば素晴らしい何かが待っている」と確信していたのだろうか?  長い廊下はついに終わり、大きな扉の前で立ち止まる。扉はひとりでに開き、塩原の足は意思と反して勝手に扉の向こうへ進んでいく。  部屋の中は、高層ビルを筒にしたように、天井は高く、壁が見えないほど広々としていた。  数m先に、人がいる。  彼の元に行かなくてはならない。何故かそう思ってしまい、無意識的に足が動く。青年との距離が1メートルほどになった瞬間、ピリッとした感じがした。微弱な電流を流されたような、そんな感じ。  頭上で何かが動く気配がして見上げると、大量の本が浮かんでいる。見えなかったはずの壁が、近くにあるような、遠くにあるような不思議な感覚を引き連れて、見えるようになった。  気が遠くなるほど遠い天井まである本棚だ。本棚には隙間がなく、ぎっしり詰まっている。
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