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追った先には、廃墟があった。
光に辿り着けば、夢から覚めると思っていたが、そんな簡単には夢から覚めないらしい。
それならいっそ、夢を満喫しようと開き直り、恐る恐る廃墟の中に入った。
「失礼します」
返事は返ってこなかった。
誰もいないであろうと思いながらも、暗い廃墟の中を見渡しながら、誰かを探してしまう。
奥に進んでいくと、誰かが泣いているような声が聞こえてきた。
泣き声が聞こえる方へ足を進めていく。
声はだんだんと大きく聞こえ、辿り着いた一室には、女の子がいた。
「どうしたの?」
そう声をかけて、顔を上げた女の子の目は綺麗な藍色だった。
既視感があった。どこかで見たことがあった。
一瞬思い出しそうになるが、すぐ消えてしまう。
何かを思い出しそうになる自分と、思い出してはいけないと自制する自分がいる。
「一人なの?」
そう聞きながら、女の子の白い手に触れようとした時、頭の中で何かが弾けたような感覚がして、僕は意識を失った。
*
目が覚めたら病室のベットだった、なんてことはなく。廃墟の中だった。
どのくらい寝ていたのだろうか。
体を起こして周りを見てみるが、いつの間にか女の子がいなくなっていた。
この夢はどこまで続くのだろうと思いながら、僕は女の子を探すことにした。
広い廃墟の中を探すのは大変だと思い、取り敢えず、来た道を戻ることにした。
運がいいことに、女の子はすぐに見つかった。階段に飾ってある、絵を見ていた。
僕も一緒になって、その絵を見た。
何の絵なのか、聞こうと思って開きかけた口を僕は閉ざした。
絵を見て泣きそうになっている女の子の横顔に見覚えがあった。
その横顔を見て、謝らなければいけない気がした。
「ごめんね」
そう呟いた僕の声が聞こえているのか、いないのか、女の子は藍色の目を僕に向けて、手を握ってきた。
冷たかった。とても冷たくて、僕はこの冷たい温もりを知っている。
いや、想い出した。
「また会えたね」
そう言った僕に、君は微笑んだ。
想い出した記憶の中でも、君の目はとても綺麗な藍色だった。
「やっと想い出してくれた?」
君の細く透き通る声が僕の耳に響いた。
「今まで忘れてごめんね。君がいなくなってしまったことが苦しくて、痛くて、怖かった」
「そっか。想い出してくれてありがとう、でもごめんね」
君は泣きそうな顔で、そう言った。
その顔を見て、もう二度と会えないのだと悟った。
「やっと想い出したのに、せっかくまた会えたのに」
「もう会えないけど、忘れないでね。また忘れたら、また」
最後まで君の言葉を聞けず、暗くて深い夜が僕を包んだ。
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