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修学旅行初日
「戸村先生、到着後はホテルから、バス停まで担当者の方が迎えに来てくれるそうです」
携帯電話を指さしながら、同僚の永田先生が言った。
うちの中学校は小さいながらも歴史があり、京都へ修学旅行に来た際には同じホテルを利用している。そこの担当者の方とも、顔見知りになってきた。
「永田先生、バスを降りたら確認するのは、学生の人数と……」
「生徒の親御さんが来ていないかの確認ですよね」
「そう、まず最初に発見されるのは、このタイミングだから」
生徒の親御さんを見つけたからといって、特に教員が騒ぎ立てる訳でもない。しかし、親御さんが騒ぎ立てないように注意しないといけない。初日から、我が子に手を振ったり名前を呼んだりして、生徒の修学旅行の妨げになる行為は、謹んでもらいたいからだ。
実は修学旅行についての職員会議で、今回自分から案を出した。
「保護者に渡す案内文に、はっきりと書きましょう。修学旅行先にまで、ついてこないようにと」
「戸村先生、実は、数年前にも案内は出しているんです。しかし、これも親御さんたちの伝統なのか、修学旅行先まで来てしまう方は必ずいるのです」
学年主任は、どこか頼りなさそうだった。
「もちろん、生徒が急病になった時には非常に助かる行為です。でも、最初から付いて来ちゃうなんて、親御さんの常識の問題でしょ」
「まあね。でも、その場で私たちが注意すれば何事も起きないのだから」
「では、『保護者の方の修学旅行先での接触は、固くお断り致します。仕事等のご都合で来られない親御さんもいらっしゃいます。複雑な思いになってしまうのは、生徒です』と、記載するのはどうでしょうか」
情熱が届いたのか、今年の案内文にはこの内容が載っていた。
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