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「次の降り立つ惑星はどうだろうな」
「さすがに、いないんじゃないですか?」
「そうだといいんだがな」
「さっきの惑星と、次に立ち寄る惑星とは何百光年も離れているんですよ」
地球を離れ、惑星間を探索している任務についている我々は、人類が生存可能な惑星を発見しては着陸し、調査を行うことを目的としていた。
今までいくつもの惑星に降り立ってきたが、そのほとんどは、とても人類が住めるような環境ではなく、大気や土壌のサンプルを採取し離脱するのみだった。
ところが、今回は立て続けに地球によく似た惑星を発見し、降り立っていたのだった。
そしてその際、とある不可解な現象が我々を襲っていた。
我々と同じ人類と思わしき生物が、歓迎してくるということだ。
姿かたち、服装、食事、言語、文化から何から何まで、ほとんど同一にちかい。
統計的には非常に稀有なことだが、ありえないことではない。
問題はそこではなかった。
行く先々の惑星で、まったく同じ環境で、同じ生物が出迎えてくるということだ。
初め、人類存続の可能性がある惑星を発見したした時には、クルー全員が手を取り合い、世紀の大発見に歓喜した。
そしてその地に降り立った時のこと。
そこは地球とよく似た環境で、海が広がり青い空に包まれ、緑の木々が育つ、自然あふれる豊かな星だった。
しかもそこで、人類に非常に似た生物に歓迎されたのだ。
翻訳装置も必要なく、言語もほぼ同じ。
科学技術的、文化的レベルは、地球の前世紀ほど。
服装も、ひと昔まえの地球上で流行った懐かしいものを身につけ、家屋や電化製品も我々が子どもの頃に見かけたようなものを使用していた。
見間違えるほど、そっくりの容姿を持ち合わせた原住民らは、我々に友好的で、
「よくぞ、いらっしゃいました」
と笑顔で出迎えられた。
3日間の滞在で様々な歓迎を受け、その惑星を離れる際には、土産までも頂いたのだった。
当初はこの大発見に驚喜し本国へと報告したのだったが……
それが次の惑星でも続いたのだった。
「また会えましたね」
いく先々で同じような惑星を発見し、その度に調査と称して地上に降り立つのだが、どこへ行っても最初の惑星で出会った住人たちと顔を合わせるのだった。
そのうち我々は、彼らと遥か昔からどこかで出会ったような、もともと知り合いだったような、そんな不思議な感覚に陥るのだった。
そして今回もそうだった。同じ顔ぶれの面々と、何回も同じことをしてきた歓迎会に参加するのだった。
彼らは決まってこう言うのだった。
「また会えましたね」と……
あまりにも不可思議な出来事に、クルー全員が集まりミーティングを行った。
この一連の出来事への見解を出し合ってもらう。
様々な意見が飛び交った。
「あれは惑星の調査にやってきた生物の、姿かたち、言動などを真似る未知の生命体だ」
「いや、我々を油断させるために人類を装って、隙をみて宇宙船ごと奪おうとするモンスターなのだ」
「今まで出会った者たちは、実は本当に同一の生命体で、我々の行く先を先回りし、そこの原住民を装っているのではないか?」
「もしかすると、この船内に既に紛れ込んで、一緒に移動しているのでは?」
「すでに我々の誰かに成りすまして、平然と生活しているのでは?」
議論は白熱し、結論が出るには至らなかった。
ただ、最終的に次に降り立つ惑星でも、同じようなことが起きたら武力行使してでも、原住民に知っていること全てを問い詰めることに決まった。
緊急時には武器の使用も、我々には認められていた。
この件は、隊長の私と、クルーの全員の意見の一致によって決定された。
はたして、次の探査目標惑星では、あの同じ住民たちが飽きることなく待ち構えていた。
「また会えましたね」
例の如く歓迎ムードで我々を迎えてくれる住民。
しかし今回は事情が違う。
我々は一斉に銃を構える。
武器を突きつけられた原住民は怯えながら訴える。
「こ、これはどういことですか?」
「それはこちらが問いたい。いく先々で我々を待ち構え、いったい何が目的なのだ!?」
「私たちに目的など……」
「答えるんだ!」
「……よろしいのですか? 真実をお話しても?」
「かまわない」
「私たちのこと、よくご覧下さい。なにか気づきませんか?」
「特に何も」
「遠い過去で、お会いしているはずですが?」
「なに?」
「回りをよく見てください。過去の記憶を辿りながら」
そう言われ、目を凝らしながら我々を見つめる住民の顔を見比べる。
と、その一人に見知った顔があった。
「お前は……?」
それは学生時代の友人だった。
それだけではない。
知人に、家族から親族。
先生に恩師に先輩。
かつて仕事でお世話になった上司。
これは……どういうことだ?
もしや、私の記憶の中を覗き、その風景から出会った人物まで再現しているというのか?
「これはあなたが望んだ世界です」
「私が、望んだ、世界だと?」
「そうです。ここにいればいつまでも……覚めることのない……幸せだったころの……」
……
…………
男は長い眠りから目を覚ますと、自由に動かなくなった体をなんとか起こし座り込む。
どうせ目覚めた所で事態が改善するわけではない。
男が隊長として乗り込んでいた調査船は、宇宙空間を航行中、出力系統に異常をきたし、この辺境の惑星へと不時着した。
当初はクルーたちも生存していたのだが、この開拓期前の火星のように何もない、ただ赤い砂が広がる大地の中で、次々とクルーたちは息絶えていった。
最後に残ったのはこの男だけだった。
男が力尽きるのも時間の問題だろう。
男は既に死を覚悟していた。
食料や水はあと3日分しか残されていない。
あとはどうやって安らかに死を迎えるかだった。
男が最近見る夢は、なぜか懐かしい光景ばかりだった。
故郷の自然あふれる地球上での生活。
人生で一番充実していたであろう、探査船での惑星調査。
クルーたちと惑星間を飛び回り、最終的には生存可能な惑星を発見するという、まさに夢のようなストーリーが寝るたびに脳内で繰り返されていた。
目が覚めると詳しい内容は忘れてしまっているが、地球に似た惑星に降り立って、地球人に似た原住民と会話をしているような内容だったことは、おぼろげに覚えていた。
日に日に、原住民の姿が懐かしい思い出の人物に変化しているように感じられた。
今日見た夢は、やはりクルーたちと新たに惑星を発見し、その地に降り立つ。
すると、故郷に似た景色の広がる大地。
そして出迎えてくれる者は……今日は年少期に会った親戚一同だったような気がする。
あいつは今頃、なにをしてるんだろうな?
お世話になったあの人に、一言伝えておきたかった。
残してきた家族は、私がいなくても立派に生きていくことだろう。
これはきっと、走馬灯なのだろう。
記憶が遡っているということは、それだけ死期が近づいていることなのだ。
また会いたいという願望が、夢の中で再現されているのにちがいない。
もう一度、
生きて帰還し、
また会えたら、
どんなに嬉しいことか……
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