第六章

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第六章

 手すりにお腹を乗せた瞬間、何かが私に飛びかかって来た。    驚いて払いのけると、その黒いモノは体をくるっと回転させて地面に降り立った。  黒い子猫だった。  私を見つめ、「ニャア」と鳴いた。    丸くて大きな目。  見覚えのある顔。  しゃがんで、子猫の顔を覗き込む。  子猫は首を傾げて、私の顔を覗き込んだ。  この仕草って‥‥。 「ノア!? ノアなの!?」  いや、ノアじゃない事は分かっている。  ノアが生きてたら24歳。  100歳越えのおばあちゃんだ。  それに、子猫の姿のままのはずがない。  でもそっくりなその姿に、「ノア」と呼びたくなった。 「ノア、私を止めてくれたの?」  子猫はそれに応えるように「ニャア」と笑顔で鳴いた。 「もう!何処に行ってたのよ!ノア!」  そして、ずっと思っていた事を聞いた。   「あなた、私のママなんでしょ?」  だって、苦しい時はいつも寄り添ってくれていたから。  だって首を傾げる癖、ママの癖だもん。    きっとママが姿を変えて会いに来てくれたんだ。  そうだ。ママに会えるなら孤独だって寂しくない。  子猫は不思議そうに首を傾げた。  私は子猫を抱き上げると、胸の中に抱きしめた。  その体から懐かしいノアの匂いがした。  苦しかった思い出が走馬燈のように蘇り、涙が溢れ出た。  子猫は不思議そうな顔をして私の顔を覗き込む。  その時初めて子猫が何かを咥えているのに気がついた。  青と黒で出来た小さなぬいぐるみのようなもの。  何処かで見覚えがある。
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