29人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は目を瞬いた。乾ききった唇を震わせてもう一度見る。明るくなり始めた東の空がそれをはっきりと見せてくれた。黄土色の砂から生えている細い緑色の草を。
その瞬間、もう二度と立ち上がれないと思っていた体が動いた。ぎこちなく立ち上がり、前かがみで一歩、二歩と前へ出て止まる。吹く風が、どこからか水気を含んだ空気を運んでくる。二歩、三歩。明るさが増してくる。天を仰ぐと眩しさで目を細めた。雲の切れ目から日差しが差し込んでいる。もう足は止まらない。前へと進み続けた。
どのくらい経ったのだろう。
突然前方が開けて、目を疑った。辺り一面に鮮やかな深緑が広がっていたのだ。
足をもつれさせながら駆け寄り、木々の間へ入り込む。葉が隙間なく生い茂っているのを初めて見た。枝の合間を走っていくのは、リスか。上空で飛び交う山鳥。笛の音のような鳴き声がする。聞こえてくる、ザァザァと流れる水の音。そして、胸一杯に広がる草葉の湿った匂い。
泣き出しそうなくらい気持ちが昂ぶっているのに、圧倒されて声も出ない。
林の向こうに草原が見え、一点に目が留まった。獅子が佇み、こちらを見つめている。その眼差しはどこか温かい。
僕の頬は思わず緩んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!