探求者

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 東の地平線から空が闇色に染まっていく。辺り一面の平野は見渡す限りの黄土色。風が吹く度に表面の砂がまき上がる。  ザザ、ザザ。  丈の長い貫頭衣一枚の格好で、手荷物を引きずりながら歩む。革の靴は底が擦り切れて、だいぶ前から足の裏が痛んでいた。空腹感はとうになく、体中の力を使い果たしてしまったかのよう。もう歩くのを止めようか。そう思ったとき。  前方に黄金色の毛並みの生き物を見つけた。人が背の上に乗れそうなほどの大きな体躯で、長いたてがみを生やしている。獅子だ。伏せた格好で顔だけを上げて、僕に話しかけてくる。 「俺は腹が減っている。お前の肉を食わせろ」  その言葉の通り、獣の体は痩せ細っていた。四肢を動かさないのは立ち上がる気力すらないからか。危険を感じなかった僕はゆっくりと歩み寄った。 「僕にもこの体が要る。そう簡単には譲れないね」 「それなら腕一本でもいい。どうだ」 「腕を奪われたら生き抜くのに不便だ。それよりもっといい案がある」  荷物を脇に置いて、後ろ脚の前で屈み込んだ。滑らかな毛並みに触れる。獅子の毛を触るのは初めてだ。手に集中して回復の術を使った。これは僕の家が代々受け継ぐ特別な技で、撫でるだけで血液を活性化させる効果がある。触る体毛の下から力が漲ってくるのを感じた。   獅子が体をぶるっと震わせ、立ち上がった。僕も立ち上がって相手を見下ろす。 「これで君の体は一日だけ動く。肉が欲しければ野犬でも狩ったらいいよ」  獅子は与えられた力を確認するように、頭を一ひねりした。そして鋭い眼光を放ちながら、牙を剥いて言う。 「目の前にちょうどいい獲物がいるのに、わざわざ狩りなどするか」 「僕は獲物ではないよ、よく見てご覧」 「ふん、何だっていい。お前は俺に食われるのだ」
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