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サウザは夜行性だったが、僕に行動を合わせてくれる。明るい内に進み、夜になったら休む。たまに小動物を見かけるが、兄さんと違って僕は狩りが苦手だ。サウザに期待をしたが狩りはしないらしい。仕方なく飢えは岩陰や地面の窪みに潜む爬虫類でしのいだ。
問題は水だった。乾いた平野に水の湧く場所はない。回復の術を使って喉の渇きを誤魔化した。それも限界だと感じた日、雨が降った。雨粒を感じてすぐ地面に穴を掘り、そこへ皮の布を敷く。溜まった雨水を空の水筒に入れ、ちびちびと飲んだ。
更に平野を進むと、地形は緩急が見られるようになった。窪地で休もうとしたら、幾つもの岩が転がっている。近づくにつれ、それは岩ではなく密集したテントだと分かった。誰かがここで野営をしていたのだろうが、もう誰もいないのは明らかだ。地面の色と同化した布は、ぼろぼろに破れて風ではためいていた。
何か役立ちそうな物が残っていないかと、テント内を探った。壊れた食器や朽ちた板切れが転がっていただけで、目ぼしいものはない。
ふと、風で揺れた一つのテントから何か黒いものが垣間見えた。まだかろうじて原型を留めているそのテントに手を伸ばし、端をめくる。
敷いた布の上に人が横たわっていた。体の大きさからして、大人だろう。ボロボロの衣服の下は、もう男女の区別もつかないほど痩せ細っている。
胸が上下しているのを見て、回復の術を使おうと手を伸ばした。が、息を呑んで止めた。むき出しの顔や手足は斑に黒ずんでいる。
その人が目を開け、視線をさまよわせながら唇を動かした。
「み……」
何か話したいことがあるのだ。僕は顔を寄せて耳をそばだてた。
「……ず」
みず、そう聞こえた。すぐに肩掛けカバンの中から水筒を取り出すと、側に寄ってきたサウザが忠告した。
「やめておけ。水は貴重だ」
「少しくらいならいいさ」
そう答えると、横たわった人の頭を持ち上げ、口に水筒を当てた。ゆっくり傾けたが、すぐに噎せてどれだけの水が喉を通ったか分からない。
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