ビヴァリーは雨の中

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ビヴァリーは雨の中

――ああもう、六月って嫌い!  私は一人、プンスコしながら雨の中を歩いていた。制服の上にレインコートを着ているせいで、正直暑いったらない。今日は随分ジメジメと蒸し暑い日だった。太陽はまったく雲の向こうから顔を出してくれる気配もないというのに。  こんなのんびりした町で、見回りなんて必要あるのだろうか。個人的にはそう思うものの、これも“交番のお巡りさん”の仕事である以上仕方のないことである。比較的治安がいい町とはいえ、過去に事件や事故が起きなかったわけではない。実際、ここのところ見回りを強化しているのも、一応理由はあるのだ。なんでも、最近この近辺で露出狂が出るというのである。 ――春になると変態が元気になるっていうけど。春過ぎても変態は変態よね。小学生相手に下半身見せて何が楽しいんだか。  しかも、その露出狂(目撃証言によれば中年のおっさんらしい)は、小学生相手なら男でもいいらしく、男子生徒の前で下半身を露出させたことも何度かあるらしい。きもい、マジきもい、果てしなくきもい!と交番にも相談が相次いでいる。私も一応は女の身なので気持ちはよくわかる。一刻も早く捕まえたいのは同じだった。  が、その露出狂が出るのは晴れた日か曇りの日らしいということもわかっている。多分、すっぱだかで歩くのが寒いからだろう。こんな雨の日に様子を見る必要があるのかは疑問に思う。案の定、駅の周辺をぐるりと回ってみたが、今のところそれらしき不審者の姿は見当たらなかった。 ――早く帰ろ。ていうか、先輩も私にばっか見回り押し付けないでほしーわ。絶対自分が行きたくないだけでしょ。仮に不審者見つけたって、私一人でどうにかできると思ってるんだかね。  ぶつぶつと心の中でぼやきながら、大通りの裏道を通った時だった。 「ん?」  とあるビルのシャッターの前。黄色いレインコートの人物が立っていることに気付いたのである。赤いレインコートに、赤い傘。妙に目立つと言えば目立つ。ほっそりとした手に胸のふくらみからして、多分女性だろう。コートのフードを目深に被っている上、距離もあるので顔まではよく見えないが。 ――露出男じゃあなさそうだけど、なんだろ、あれ。  閉じたシャッターの前、傘を持ったままぽつんと立ち続けている。スマホを見るでもなく、時計を見るでもない。  不思議に思うものの、職務質問を行うまでもないと判断した私。きっと、待ち合わせか何かなのだろう。
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