ビヴァリーは雨の中

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 *** 「なんてことが最近起きてるわけですけど。……先輩聞いてます?」 「あー、うん」  もぐもぐもぐもぐ。バッグの中から無限におにぎりを取り出して頬張っている、同じく交番勤務の江口先輩。私よりずっと細く見える彼女の、一体どこにそんな大量の食糧が詰め込まれているのか不思議で仕方ない。どうすればそのスタイルを維持できるのか、是非とも秘訣を聞いてみたいものだ。私は食べたら食べた以上に太ってしまい、体重計が常に怖いタイプだというのに。 「赤いレインコートの人、それから雨の日のたび同じ場所に立ってるんです。いっつも閉じてるシャッターの前。傘さして、なーんもしないでぼーっとどっかを見てるかんじ?」 「ふうん」 「最初の日は待ち合わせかと思ったんですけど、雨の日のたびに見かけるとなるとなんか気持ち悪いというか、怖くて。あれ、職務質問とかした方がいいんでしょうか?」  女性っぽいし、特に立っているだけで怪しい行動をしているわけではない。ただ、ぶっちゃけ事件というのは“怪しい行動をしてからでは遅い”というのもある。彼女が何か犯罪行為をするつもりで佇んでいるのなら、その前に阻止しなければいけないと思うのだが。  ちなみに、今日は外は曇り。天気予報でも、雨が降ることはないだろうと言われている。いつもの通りなら、あの女性も姿を見かけることはないのだろう。 「……石井ちゃんさー」  ごくん、と。おにぎりをお茶で流し込んだところで、大食い女王な先輩は返してきた。 「まあ、新人だからしょうがないと思うけど。これからも警官ガンバりたいなら、もうちょい観察力は鍛えた方がいいと思うわよ」 「観察力、ですか?」 「そうそう。例えば、その人の特徴とか。もう少しなんか覚えてないわけ?」 「えーっと……」  そう言われても困る。じろじろ見るのも不躾に感じて、いつも通りすがりにちらりと見る程度の相手なのだから。 「赤いレインコートで、フード被ってて、赤い傘を持ってます。身長は……私が165cmだから、それよりちょっと小さいくらい、かな?まあそんなかんじですかね」 「他に何か持ってた?傘以外に。あとレインコートの下が膨らんでいて、バッグを隠している様子は?」 「うーん、特に持ってる様子とかはなかったと思いますけど、それが何か?」
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