ビヴァリーは雨の中

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 私がそういうと。江口先輩は露骨に、はぁあああ、と深い深いため息をついたのだった。  いかにも呆れました、という態度。ちょっとだけムカついてしまう。そりゃあ私はまだ交番勤務を始めて三か月も過ぎてないぺーぺーの新人警察官かもしれないが。 「レインコートでフード被ってても、髪型とかは多少見えるはずでしょ?マスクとサングラスしてたわけでもないから顔も多少は見える。しかも、アンタは何回もその相手の前を通ってるわけ。にも拘らず、相手に関する情報が少なすぎると自分でも思わない?」  言われてみれば、そうかもしれない。私は目をぱちくりさせた。  なんか変な人だな、くらいには思っているので、ここ数日雨が降るたびに気にしてちらちらと見ているはずなのだが。 「理由は極めて単純明快。相手が赤いレインコートに赤い傘なんて超目立つ格好してるからよ。それが目に焼き付いちゃって、他の情報が頭に入らなくなってるの」 「あー……そ、それはあるかも」 「それとね。男性なら財布と携帯だけポッケに入れて外を出歩くことも珍しくないんでしょうけど……女性の場合、鞄も持たずにお出かけするって稀だと思わない?そりゃ、ご近所にゴミ捨てに行くだけ、とかだったら持ち歩かないかもしれないけれど。近くのコンビニに行くだけ、公園に行くだけであったとしても鞄を持っていきたくなるって心情はなんとなーくあるわけ」 「あ、言われてみればそうかも」  なんとなくだが、鞄を持って歩かないと不審なような気がしてしまうと言えばいいのか。それに、ポケットがそもそも“モノを入れるのに適した仕様”でないケースも少なくない。最近はスマホも大型化してきてポッケに入りづらくなっているから尚更に。  また、女性は化粧品や日焼け止めといったものを常に持ち歩く人も多いはずである。ごくごく近所に出かけるケースを除けば、鞄ナシで歩くのはやや不自然なのかもしれなかった。 ――とすると、彼女……なんで鞄もなしにあんなところに立ってたんだろ?  濡れるのが嫌だからレインコートの下に入れていた、というのならわかる。でも見たところ、彼女の体はカバンの分膨らんでいるようには見えなかった。胸のふくらみがわかるあたり、そこまで分厚いレインコートを着ていたわけではないと思うのだが。
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