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「それから、彼女が立っていた場所もそう。裏通りの、いつも閉じてるシャッターの前、なんでしょ?いつもシャッターが閉じてるということは、そのビル……少なくともその一階のテナントは使われていない可能性が高い。つまり、人が出入りしない場所、人気がない場所よね。そんな場所で人と待ち合わせなんてする?待ち合わせするとしたら、何やヤバイ取引でしかないと思うけど?」
「い、言われてみれば……」
「待ち合わせにせよ、そうでないにせよ。彼女がそんな目立つ格好で、雨の日にだけそこにいるというのがだいぶ問題だわ。あんたは制服でいつも見回りしてる。向こうも、それに気づいていてもおかしくない。むしろ、通りがかる私たちに“いつも赤いレインコートの女が立っている”ことを印象付けたい可能性がある。いつも立ってるけど何もしない、害がない。それでいて赤いレインコートと傘の印象だけが残る。……彼女は、いつも思ってるんでしょうね。雨よ降れ、もっと降れって。何故なら、雨が降れば降るほど、彼女の存在は不自然ではなくなるから」
「…………!」
段々と、私にもことの深刻さがわかってきたような気がする。
そもそもだ。人間、レインコートを着て傘をさす場面がどれくらいあるものだろうか?ちょっとした雨程度なら、どちらか片方でいいはず。実際、私が今まで彼女を見かけた日、他にレインコートと傘を併用している人は見かけなかった。では何故、彼女はそんな恰好だったのか。
逆ではないのか。
雨の日だから、傘とレインコートなのではない。
傘とレインコートを身に着けたいから、雨の日にだけ現れる。そして、それは大雨であればあるほど自然なものとして我々の目には映るだろう。しかも、その赤い派手な色ばかりが目に焼き付く形で。
「……赤いレインコートを着ていても不自然ではないから、雨の日にだけ現れる。でもって、何故レインコートと傘を差したいのか。それを私たちに印象付けるためで、そして……」
私は震える声で続けた。
「その恰好が、変装のようなもの……だと?」
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