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朝七時に自転車で駅に行き、少し離れた場所に立って改札から出てくる人を確認し続けた。
八時頃には、あの制服の女子高生が大勢出てきた。改札を出ると、皆あの事故現場の方へ向かう。通学路になっているのだ。
注意深く一人一人見るが、あの子はいない。九時まで見て諦めて、出勤した。
帰りも授業が終わったら早退し、駅に直行するつもりだった。それでもだめなら、明日の朝。通学路を変えてなければ、絶対会えるはずだ。
出勤した僕は副担任の先生から、クラスの鈴木君が遅刻した話を聞いた。顔に擦り傷があり、服に泥がついているが、理由を言わないという。
鈴木君は穏やかでクラスの皆と仲良く、乱暴を働くような子ではなかった。
休み時間に僕は鈴木君を呼んだ。
「顔に傷があるし、洋服が汚れているよね。何があったの?」
「別に何もありません」
鈴木君は理由を話そうとしない。危険な目に遭って怪我をし、遅刻したのなら見過ごせない。しかし、鈴木君は頑なに理由を話さなかった。
昼休みになって、その謎が解けた。近所に住む高齢者の家から、お礼の電話が入ったのだ。
道端で尻餅をついて動けなくなったおばあさんが起き上がるのを助け、肩を貸して家まで送って行ったのだ。
擦り傷はおばあさんが転びそうになったのを支えた時に、おばあさんの手で引っかかれたものだった。
僕は昼休みが終わる頃、鈴木君をもう一度呼んだ。
「良いことをしたのに、なぜ黙っていたの?」
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