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「昨日からお母さん留守で、今朝はおばさんの家から来たんです。いつもの通学路じゃなくて出る時間を間違えたんで、遅刻におばあさんは関係ありません。言い訳はカッコ悪いとお父さんが言ってました。それに……」と、鈴木くんは真っ直ぐ僕を見て続けた。
「弱い人や女の人を助けるのは、男なら当たり前のこと。黙ってやるのが男の道だって、お父さんがいつも言ってます」
「男の道か」
どこかで聞いたセリフだ。
「鈴木君のお父さんはすごいね。その考えは素晴らしい。でも、鈴木君はまだ子供だ。周りの人は、君に何か危ないことがあったらと心配になるんだ。だから次からは大人が心配していたら、正直に話してほしいな」
「わかりました。先生」
鈴木君は肯いた。
鈴木君を自分の席に戻し、僕はふと思った。鈴木君の家は、母子家庭だったはずだ。
しかし、チャイムが鳴って五時間目になり、そんな疑問も忘れてしまった。
その日の夕方も、僕は駅前に立った。今度は駅へと向かってくる高校生の集団を、一人ずつ見逃さないようにしていた。
帰宅の波が過ぎたあと、一昨日の事故現場の方から一人の女子高生がこちらに歩いてくるのが見えた。
お下げ髪にあの高校の制服、そして学生鞄には白いテディベアのマスコット。あの子だ。
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