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6. 進路
「あの」
僕が声をかけると、うつむき加減に歩いていたその女子高生は顔を上げ僕を見た。そして、はっとした顔になる。
「君、一昨日、転落現場で会ったよね?」
「あ、あの、知りません。転落事故のことは関係ありません。人違いです」
女の子は自分で言って、はっとした。事故とは断定されていない。
「やはり、転落事故、だったんだね?」
僕の言葉に観念したようで、女の子はポロポロと泣き出した。
「どうしよう。私のせいで、あの人、死んでしまった」
泣いている彼女の前で困ったようにオロオロしている僕に、通行人はひと睨みして通り過ぎていく。
女子高生は、親と進路のことで口論になったこと。それで絶望的になって、発作的にビルの屋上へ上がり死のうとしたことを話してくれた。
ロータリーの向こう側にある交番に誰かが知らせに行ったらしく、警察官が一人こちらに歩いてくるのが見えた。急がなきゃ。
「あの男の人は怒ってないし、恨んでないよ。君のことを心配してる。もう死なないと約束してくれたらそれでいいって言ってるよ」
僕が言うと、女の子は驚いたように顔を上げた。
「そ、そう。僕、霊感があるんだ。あの人が見えるんだよ」
芝居を打つしかなかった。
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