6. 進路

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「ただ、あの人、暴力団関係者でね。殺人事件で捜査されると、組同士の抗争が起きるって心配してるんだ」  話しながら、二宮さんの人の好さに泣きたくなった。 「あの人、死んでも心配してるんだ。だから、自殺を止めての事故だったって証言してくれないか? じゃないと、彼、成仏できないよ」  僕の必死の訴えを、女子高生は真剣に聞いていた。 「本当に? 本当にそう言ってるんですか?」 「うん。君を止めようとして柵を乗り越えて、勢い余って落ちたんだろ。自分でそう言ってたよ」  転落の状況を僕が詳しく語ったので、やっと信じてくれたようだ。 「コホン。お取り込み中のようだが、どうしたのかな」  背後で声がして振り返ると、交番の警察官が立っていた。 「あの。お話があります。一昨日起きたビルからの転落事故のことです」  女子生徒がしっかりした声で警察官に話しかけた。  その晩、待ち構えていると、二宮さんは現れた。 「先生、ありがとな」  二宮さんは優しい顔をしていた。  女子高生の証言で、二宮さんの死は自殺を止めようとして転落した事故と認定された。  これで二つの組の間に抗争が起きる心配はなくなり、僕の生徒達を守ることができた。  女子高生は知らせを受けた両親が来て、進路についてはもう一度話し合うことになったそうだ。  僕も行きがかり上、警察で証言を求められ、夢枕に二宮さんが立ち、事故だと言ったと話した。  もちろん信じてもらえないと思ったが、担当の刑事さんは、「そういうの、たまにあるんだよね。でも、それ供述書には書けないから、単なる目撃者ってことにさせてもらうよ」とあっさり言われた。  たまにあるんだーー!
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