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7. 男の道
次の日。職員室で副校長に呼ばれた。
「君のクラスの鈴木君のお父さんが亡くなられた」
「え? 鈴木君は母子家庭じゃなかったんですか?」
「鈴木君の両親は内縁関係で籍は入っていなかったそうだ」
「お通夜や告別式は」
「近親者だけでやるんで、生徒の参列は遠慮するそうだ。ただ、君は担任だから、お通夜だけでも行ってあげるといいんじゃないか」
「わかりました」
僕はその夜、鈴木君のお父さんの弔問に向かった。
「えっ」
僕は葬儀会館前の立て看板を見て驚いた。
―― 二宮武雄儀 葬儀式場――とあった。
中に入ると、受付には皆戸組の知った顔があった。向こうも気づいて、「おお、来てくださったんですか」と声をかけられた。
受付を済ませて式場の中に入る。読経は終わっていて、会場には何人かの人が残っていた。親族席には鈴木君とお母さん、そしてその二人に寄り添うように皆戸組長と、パエリアが得意料理という組長の奥さんがいた。
「先生!」
鈴木君が僕を見て叫び、泣きながら駆け寄ってきた。
「先生、お父さん、死んじゃった」
「君のお父さんは強くて優しい人だったんだね。最後まで立派だった。男の道を貫き通したね」
泣きじゃくる鈴木君は、うん、うんと何度も肯いた。
目の前の祭壇には、顎髭と右目の脇の傷がトレードマークの二宮さんの写真があった。
僕は心に誓った。
(二宮さん、僕は鈴木君を見守っていきますよ。任せてください)
<了>
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