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「おい。おい、あんた」
ある晩、ベッドで眠っていると、夢の中で誰かに起こされた。
「おい、起きろ。あんたに話がある」
身体を揺さぶられる。え? これは夢じゃないのか? 僕は暗闇の中で目を開ける。
「ひゃあっ!」
叫び声を上げて、身を起こす。
暗闇にぼおっと月の光が差し、見知らぬ男が立っていた。
「ど、泥棒!」
思わず声が出る。
しかし、よく見ると男は半透明なのか、背後の窓から差す月明りが透けている。生きた人間ではない?
本当に怖い時は、叫び声さえ出ないようだ。夢かと思って頬をつねるが、痛い。
「あんた、さっき俺を見てただろう」
男に言われて、首を傾げる。
男は三十代後半。痩せ型で白いシャツに黒いスーツ、頭はオールバックに整えて、顎髭がある。目つきは鋭く、その右目の端からこめかみに一本の傷があり、どう見ても堅気じゃない。
小学校の教師に、そんな知り合いがいるはずもない。
僕が考え込んでいると、「自転車で通りかかっただろ」と男が言う。
「あっ」
言われて思い出した。
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