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2. 分かれ道
退勤後、自転車で学校を出て、分かれ道に来た。左の道のコンビニは味噌カツ弁当がうまい。右の道のコンビニは焼肉弁当が絶品だ。
悩んだ末に右の道を選び、ビルの一階にあるコンビニで焼肉弁当を買った。そして、自転車の籠に弁当を入れたその時だ。
背後でものすごい音がした。
「人が落ちたぞー!」
「飛び降りだ」
「救急車、警察も!」
通行人が叫ぶ声が聞こえて振り向いたが、既に人だかりができていて何も見えなかった。十階建て位のビルの屋上から、誰かが飛び降りたんだとわかったが、野次馬になる気力はなかった。早く腹を満たしたい。
既に警察や救急車は呼んだだろうし、まあいいかと自転車に乗って漕ぎだそうとしたその時、ビルの脇から女の子が飛び出して来て僕とぶつかりそうになる。
「あっ」
僕が咄嗟に叫ぶと、その子はびっくりしたように僕を見て、そのまま走り去った。お下げの可愛い子で、近くにある高校の制服を着ていた。
女子高生が駅の方に去るのを見送っていると、誰かの視線に気づく。ビルの壁に寄りかかるようにして、人相の悪い黒いスーツの男が僕を見ていた。
「あーー!」
目の前の男があの時の男だと気づいた。
「やっと思い出したか」
男はやれやれという顔をする。
「え、でも何故、ここに?」
さっぱりわけがわからなかった。
「俺さ、あの時、ビルの屋上から転落して死んだみたい」
「え? でも壁の所に立っていましたよね」
「だな。でもあの時にはもう死んでたみたいだ。まあ幽霊ってことかな」
“幽霊”と言われてぞくっとしたが、こうして話していると怖さはなかった。
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