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3. 極道の幽霊
「俺はここら辺を縄張りにしている『皆戸組』の二宮と言う。昨夜は情報屋と接触するためにあのビルの屋上にいた」
やっぱり、そっち系の人だったわけだ。僕は納得する。
「俺がビルから転落したってことで、警察は事件として捜査を始めるだろう。自殺なんてする理由はないからな」
二宮さんは言う。
「事件って、誰かに殺されたんですか?」
「いや、違うんだ。殺人でも、自殺でもない」
「えっ? じゃあ?」
「事故なんだ」
「事故?」
「そうだ。あんた、見ただろ。ビルの裏口から走り去った女の子を」
「あ、はい」
女子高生の姿を思い出す。
「俺がビルの屋上に行くと、あの子が飛び降りようとしていた。慌てて止めようとして柵を乗り越え、彼女を引き戻した拍子に俺が落ちてしまった」
そんな間抜けな極道がいるのかと一瞬思った。
「彼女は驚いて逃げてった。まあ俺の最期の姿を見て、もう変な気は起こさないだろう」
あの子のために死んだのに、まだあの子を心配しているのか。極道でも幽霊でも、憎めない人だと思った。
「で、頼みってなんですか?」
内容によっては引き受けてもいいと思うようになっていた。
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