3. 極道の幽霊

1/2
前へ
/16ページ
次へ

3. 極道の幽霊

「俺はここら辺を縄張り(シマ)にしている『皆戸(みなと)組』の二宮(にのみや)と言う。昨夜は情報屋と接触するためにあのビルの屋上にいた」  やっぱり、そっち系の人だったわけだ。僕は納得する。 「俺がビルから転落したってことで、警察は事件として捜査を始めるだろう。自殺なんてする理由はないからな」  二宮さんは言う。 「事件って、誰かに殺されたんですか?」 「いや、違うんだ。殺人でも、自殺でもない」 「えっ? じゃあ?」 「事故なんだ」 「事故?」 「そうだ。あんた、見ただろ。ビルの裏口から走り去った女の子を」 「あ、はい」  女子高生の姿を思い出す。 「俺がビルの屋上に行くと、あの子が飛び降りようとしていた。慌てて止めようとして柵を乗り越え、彼女を引き戻した拍子に俺が落ちてしまった」    そんな間抜けな極道がいるのかと一瞬思った。 「彼女は驚いて逃げてった。まあ俺の最期の姿を見て、もう変な気は起こさないだろう」  あの子のために死んだのに、まだあの子を心配しているのか。極道でも幽霊でも、憎めない人だと思った。 「で、頼みってなんですか?」  内容によっては引き受けてもいいと思うようになっていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加