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「俺のおやじ、と言っても本当の父親じゃない。身寄りがない十歳の俺を引き取ってくれた、皆戸組の皆戸組長のことだ。そのおやじに事故だったって伝えてもらえないか」
「えっ?」
「実は最近、皆戸組と隣の縄張りの龍泉会が小競り合いになって、俺の死を龍泉会の仕業とおやじが勘違いしたら、大変なことになる」
「ええっ! 僕が話しに行くんですか」
組の事務所に行って、組長に会えって頼みなら無理だ。
「よく聞け。皆戸組の組長の屋敷は本町三丁目にあり、龍泉会の組長の屋敷は大町五丁目にある。報復にまた報復なんてことになったら、繁華街の組事務所だけじゃない、この町全体が大変なことになるんだ」
「待ってください。本町と大町?」
僕が勤務する小学校の学区域だった。本町にも大町にもたくさん教え子が住んでいる。
――暴力団抗争が住宅街に飛び火――
――銃撃戦で登校途中の子供に流れ弾――
――逃げた組員、小学校に立て籠もり――
嫌な予感しかなかった。
「わかりました。説得できるかわかりませんが、会いに行ってきます」
反社会勢力と会ったりしたら、僕の教師生命は大丈夫かな? 一瞬、不安がよぎったが、生徒の命には代えられないと思った。
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