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ランドセルって、こんなに重たかっただろうか。
マンションの一階まで降りて、通学班の仲間と待ち合わせをしながら思う。背負い直すたびに、中の教科書やら筆記用具やらがガタガタと音を鳴らす。下級生の少年たちが、エレベーターホールのロビーで追いかけっこをしていた。小柄な少年が、眼鏡の少年を捕まえる。彼らの名前はなんだったっけ、とぼんやりと思った。
――ああ、そうだ。眼鏡の子がタクミ、小さい子がユキだった。
ユキ。小柄で女顔、女の子みたいな名前を随分気にしていたのではなかっただろうか。結構、いろいろなことを忘れてしまっている。一緒に学校に通う友達の名前。よく遊んだ友達の名前。クラスメートの名前に、先生の名前。
そうだ、好きな子もいたはずだ。確か、あの子は。
「あっはっはっは!俺の勝ちだぜ!」
私の思考を邪魔するように、ユキがタクミの腰に手を回して笑った。
「俺が勝ったから、放課後は大縄な!決定!」
「ええ、またぁ?いい加減、部屋の中で遊びたいよう」
「文句言うんじゃねえ!晴れの日が続く限り、俺は外で遊びたいんだよ!今日の降水確率は0%だってテレビの人が言ってたからな!」
「うげえ」
まるで嫌がらせだ。天気の話なんて聞きたくないのに、どうして私の目の前で降水確率のことなんて言うのだろう。思わず少年たちを睨みつけると、その視線に気づいてかユキがびくりと肩を震わせた。
「な、なんだよ?何怒ってんだよ、カヤ」
「……べっつにい」
ああ、天気予報なんて外れてしまえ、と思う。ニュースでは雨なんて降らないと言っていたが、それでも私はランドセルに折り畳み傘を入れていた。雨が降ってくれる、予報が外れてくれるという一縷の望みに賭けて。
このまま晴れが続くこと以上に、恐ろしいことなんてないのだ。再び、ごくりと喉を鳴らした。水筒を取り出し、お茶をなみなみと注いで飲む。朝、あれだけがぶ飲みしたのにちっとも乾きが収まる気配がない。
このまま雨が降らなければ、私はどうなってしまうのか。乾いて乾いて、かぴかぴに乾いて死んでしまうのだろうか。
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