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退屈な授業を終えて、放課後。
昨日も今日も明後日も、用事なんてないことはわかっている。私はランドセルに詰め込んできた教科書を全て机とロッカーにねじこむと、傘と財布、携帯だけ入れて教室を出た。
否、出ようとしたところで捕まった。
「カヤちゃん、一緒に帰ろ!」
「……コトリちゃん……」
同じクラスの友人、コトリちゃん。私より頭半分小さい彼女は、長いポニーテールをぴょこぴょこ揺らして駆け寄ってきた。やっぱり逃げられないか、と思う。今日くらいは、彼女と一緒に帰らずに済むかと思ったのだけれど。
コトリちゃんとは、幼稚園からの友達だった。かけっこが早くて、いつも笑顔で、クラスの中心的人物でいることが多かった彼女。勉強はできても地味なタイプの私とはまるで正反対。彼女が一緒にいてくれなければ、クラスでも孤立する場面は多かったことだろう。
イヤミなほどに、欠点らしい欠点が見当たらない少女だった。彼女と一緒に帰るのは日課で、それ自体を嫌だと思ったことはなかったはずだった。
あの時までは。
コトリちゃんが、私と同じ人を好きになってしまったと知るまでは。
「あれ、どうしたの?顔が暗いよ、カヤちゃん?」
私の心など知る由もないコトリちゃんは、きょとんとしてこちらを見つめてくる。一緒に帰りたくないなんて、断られるとは微塵も思っていない顔。ここで私が断ったら、彼女は退いてくれるのだろうか。
――なんか。下手に押し問答になったら、それもそれで面倒くさいな。
少しだけ考えて、諦めた。今は何かの手間をかける心の余裕なんてない。どうせ、彼女と一緒に帰ったところで何が起きるわけでもないのだから。
「……別に、何でもない。ただ」
「ただ?」
「……本当に、なんでもないから」
水筒の水は、とっくに飲みつくしてしまっていた。学校にいる間は、授業中以外ずっと蛇口の水をがぶ飲みしてしまっている。早く帰りたくて仕方なかった。そうすれば、冷蔵庫の冷たいお茶が待っているのだから。
喉が渇く、渇く、渇く、渇く。
雨さえ降ってくれればきっと、この苦しみから解放されるというのに。
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