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カンファを終えると、私と藤宮先生は早速病室に向かった。
「失礼いたします」
病室に入ると、ベッドに横になって窓の外を見ていた男の子が、くるりとこちらを見た。
私たちに気が付くと、男の子はしゃんと姿勢を正して頭を下げた。
「初めまして。田中頼人です。これからお世話になります」
「主治医の藤宮です」
「音無です。頼人くん、よろしくお願いしますね」
並んで挨拶をすると、頼人くんはにこりと笑って会釈する。藤宮先生の無愛想な態度にも嫌な顔ひとつしない。
くりくりとした瞳に小さな口。滑らかな卵型の輪郭。
(なんと可愛らしい……なるほど、これは頼人王子と呼ばれるに相応しい)
頼人くんは可愛い容姿とは裏腹に、十四歳とは思えないほどしっかりとした佇まいの子だった。
礼儀正しく笑顔を絶やさない姿から、巷では奥様方に頼人王子と呼ばれて人気があるらしい。
「しばらくご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
(病院着が衣装のようだ……)
生まれが違うとこうも違うものなのだろうか。感動すら覚える。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「あの、頼人くん。お父様かお母様は今どちらにいらっしゃいますか? 少しお話をさせていただきたくて……」
「両親は仕事で忙しいので、説明は僕が聞きます。両親には僕があとから伝えるので大丈夫です」
「え、でもそれは……」
未成年だし、さすがにどうなのだろう。
「そうですか。では、早速」
藤宮先生はすんなりと了承し、早速頼人くんの病状の説明に入った。
(まだ中学生なのに、両親の付き添いなし……)
口を挟みたいのをグッと我慢する。
今後の治療についての説明が一通り終わると、藤宮先生は早々に退室する。私も一礼して病室を出ようとすると、頼人くんに呼び止められた。
「あの、音無先生」
「どうしました?」
頼人くんは口を開き、私になにかを尋ねかけたが、結局なにも言わないままきゅっと口を引き結んだ。
「……いや。なんでもないです」
(……なんだろう?)
頼人くんの目が泳ぐ。
「もしかして、ご気分が優れませんか? もしなにかご不便がありましたら、なんでも言ってください」
子供とはいえ、彼は藤宮先生が担当するVIP患者だ。失礼がないよう心がけて接する。
「大丈夫です。それより、父が勝手に病院長に話をしてしまったせいで、変に気を使わせてしまってごめんなさい。こんないい部屋に入れてもらっちゃって」
「い、いえいえ、とんでもありません。藤宮共々、誠心誠意治療に当たらせていただきます」
「……よろしくお願いします」
私が頭を下げると、頼人くんも丁寧に頭を下げた。
(この人当たりの良さ……少しでいいから藤宮先生に見習っていただきたい……)
頼人くんは、『頼人王子』イメージのまんまといった感じで、他の入院患者や患児たちとも積極的に交流していた。
VIP患者への接待に不安を感じていた私は、その姿を見てホッとしつつ、彼の態度になにかが引っかかるのだった。
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