第二章・心臓に秘めた想い

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 カンファを終えると、私と藤宮先生は早速病室に向かった。 「失礼いたします」  病室に入ると、ベッドに横になって窓の外を見ていた男の子が、くるりとこちらを見た。  私たちに気が付くと、男の子はしゃんと姿勢を正して頭を下げた。 「初めまして。田中頼人です。これからお世話になります」 「主治医の藤宮です」 「音無です。頼人くん、よろしくお願いしますね」  並んで挨拶をすると、頼人くんはにこりと笑って会釈する。藤宮先生の無愛想な態度にも嫌な顔ひとつしない。  くりくりとした瞳に小さな口。滑らかな卵型の輪郭。 (なんと可愛らしい……なるほど、これは頼人王子と呼ばれるに相応しい)  頼人くんは可愛い容姿とは裏腹に、十四歳とは思えないほどしっかりとした佇まいの子だった。  礼儀正しく笑顔を絶やさない姿から、巷では奥様方に頼人王子と呼ばれて人気があるらしい。 「しばらくご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」 (病院着が衣装のようだ……)  生まれが違うとこうも違うものなのだろうか。感動すら覚える。 「こちらこそ、よろしくお願いします」 「あの、頼人くん。お父様かお母様は今どちらにいらっしゃいますか? 少しお話をさせていただきたくて……」 「両親は仕事で忙しいので、説明は僕が聞きます。両親には僕があとから伝えるので大丈夫です」 「え、でもそれは……」  未成年だし、さすがにどうなのだろう。 「そうですか。では、早速」  藤宮先生はすんなりと了承し、早速頼人くんの病状の説明に入った。 (まだ中学生なのに、両親の付き添いなし……)  口を挟みたいのをグッと我慢する。  今後の治療についての説明が一通り終わると、藤宮先生は早々に退室する。私も一礼して病室を出ようとすると、頼人くんに呼び止められた。 「あの、音無先生」 「どうしました?」  頼人くんは口を開き、私になにかを尋ねかけたが、結局なにも言わないままきゅっと口を引き結んだ。 「……いや。なんでもないです」 (……なんだろう?)  頼人くんの目が泳ぐ。 「もしかして、ご気分が優れませんか? もしなにかご不便がありましたら、なんでも言ってください」   子供とはいえ、彼は藤宮先生が担当するVIP患者だ。失礼がないよう心がけて接する。 「大丈夫です。それより、父が勝手に病院長に話をしてしまったせいで、変に気を使わせてしまってごめんなさい。こんないい部屋に入れてもらっちゃって」 「い、いえいえ、とんでもありません。藤宮共々、誠心誠意治療に当たらせていただきます」 「……よろしくお願いします」  私が頭を下げると、頼人くんも丁寧に頭を下げた。 (この人当たりの良さ……少しでいいから藤宮先生に見習っていただきたい……)  頼人くんは、『頼人王子』イメージのまんまといった感じで、他の入院患者や患児たちとも積極的に交流していた。  VIP患者への接待に不安を感じていた私は、その姿を見てホッとしつつ、彼の態度になにかが引っかかるのだった。
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